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「やれやれ、今度の主は難しい要求ばかりしてくる」
錬金術師はため息交じりに腰を下ろすと、モノクルを外してレンズをぬぐった。
配合時に飛び散った双子草の粉で汚れてしまったからだ。
――キュイ……
控えめな鳴き声に足元を見下ろすと、小さな銀の竜が羽を震わせていた。
「これも契約だ。仕方がない」
錬金術師はモノクルをかけなおすと「おいで」と竜に腕を差し伸べた。
竜は羽をはばたかせて飛び上がろうとするが、ほんの少し浮くだけで落ちてしまう。数回の失敗の後、ようやく竜の体が浮き、錬金術師の腕に乗った。
「私は私の契約を果たす。だからお前も、契約を果たせるようにがんばれ」
この竜は、飛ぶことはともかく飛び上がることが下手だ。
――キュウ……
「そんな甘えた顔をしてもだめだ。私とお前とは、契約で結ばれている。契約に従い、私が食べ物と寝床を提供している以上、お前も契約に従わねばならない」
相手が子供だからこそ、契約についてはきちんと教えておく必要がある。錬金術師はあえて厳しい顔で言うと、子供の竜はしょんぼりとうなだれた。
世界の理は「契約」によって成立している。
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