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────まぶた越しに、光を感じる。
身体が重い……。それに痛い……。
でも、痛いということは……一命を取り留めた、のだろうか。
ぼやけて聞こえる音の中には、大人の声。女性と、男性……かな。
女性
「……する?この子はQ-325と……というこ…は……」
男性
「……ってる。……収容…終了す……」
女性
「待っ……まだ子どもで……せめて能力を……」
凄く、凄く物騒な話をしている気がする。
今ここで瞼を開けないと、僕はもしかしたら酷い目に合うかもしれないって思う。
必死になって瞼を開けようとする。金縛りになったみたいに全然動こうとしないけど、それでも。
まるで錆びた鉄の扉をこじ開けるように、ゆっくりと、ゆっくりと瞼が開かれた。
そこには、少し驚いた様子の艶やかな女性と、気の毒そうに見つめるちょっと長髪のダンディな男性がいた。
女性
「目を覚ましたのね、よかった!
自分の名前は分かる?」
七海しずく。
そう言おうとしたけど、上手く喋れない。出てくるのは、掠れた声だけであった。
しずく
「な……なな、み」
女性
「あぁ、よかったわ
あなた、轢かれる前に猫を見たわね?その猫はどこ?」
男性
「おーいおいおい、待て。目ぇ覚ましたばっかの人間に質問責めすんなよ」
男性は女性を制止する。
そして、男性は僕の寝ているベッドに腰掛け、一つため息をした。
男性
「……はぁ。気の毒になぁ、少年。クソ猫と遭ったばかりに。
俺はグレア。こっちの女はレイスだ。お前の身柄を保護してる」
ほ、保護?
グレア
「んまぁ、なんだ。お前がさっき出会ったクソ猫はバケモンなんだよ。言っても分からんと思うが……『自分が選んだ人間に、自分を助けさせてトラックに轢かせる。その代わりに特殊な能力を与える』ってな」
……なるほど。
そういうオカルトもいるんだ。
僕はすんなりとその存在を認めた。
今のご時世だから。
グレア
「……ほう。そんなに違和感なく受け入れられたか?さすが、最近の若者だな
じゃあ、お前が今どういう状況かも察せるかもな。お前はまさに、変な能力を手に入れちまったはずなんだわ。そいつがなんなのかはまだ分からんが」
「それでだな」と、グレア氏は腕を組み、少し沈黙する。
やがて頭を掻きはじめ、また大きなため息を吐いてから、僕に向き直った。
グレア
「まぁ、俺らはそういうのを捕まえて研究し、アーカイブする組織のモンなんだわ
だから、なぁ。俺はお前を連行するか、抵抗するなら介錯してやらにゃならんのよ。そこんとこ、分かってくれるかね」
……やたら、僕の頭は冴えていた。
そんなもんなのかなって。
となれば、答えはシンプルだった。
まだ死にたくない。だって15歳だよ?やりたいことまだたくさんあるから。
逃げることも、出来なそうだし。家に帰りたいのが正直なところだけど……現実的じゃない。
なので……。
しずく
「……連れて、いって、ください」
グレア氏は、「英断だ」と不器用に微笑んだ。
レイス氏は、終始哀しそうな顔をしていた。
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