#2 男子高校生のフラグ

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「炎樽、天和。腹減ったってば」 「そんじゃ、コンビニで何か買ってくるわ。ついでに電気水道代も払わねえとだし」  部屋着のままパーカだけ羽織って、天和が俺の前を通り框に腰掛けた。ややこしいデザインのスニーカーを履いて「行ってくる」と部屋を出て行くその後ろ姿は、何だか変に男らしい。 「天和って、優しいな」  彼に関する噂を何一つ知らないマカロが、ベッドに転がって尻尾を振る。 「ちょっとエロいけど、炎樽のこと好きって気持ちを隠してねえし。素直な男なんだな」 「そういう評価? マカ、飯に釣られてるんじゃないだろうな」 「炎樽と天和がくっついたら、俺も毎晩おこぼれの種がもらえるかも……」  涎を垂らしてうっとりと目を閉じるマカロを鼻で嗤い、俺もベッドに腰を下ろした。 「天和といれば俺の身を守れるって、マカが言ったんだろ。それ以上の関係にはならない、残念だったな」 「炎樽、天和のこと嫌いか?」 「嫌いっていうか……」  今まで「好きな男は」と自分に問いかけた時、真っ先に思い浮かぶのは彰良先輩の姿だった。俺が誰より尊敬している人。優しさと柔らかさを一つにまとめて軽くこね合わせ、そこにハンサムで秀才というエッセンスを加えたような人。天和とは真逆の世界で爽やかに羽ばたいている人だ。 「………」 「……炎樽、匂いが濃くなった。さては天和とのエロいこと考えてるだろ」 「考えるかぁっ!」  男の強さは腕力じゃない。何よりも大切なのは心の強さ。 ……だけど昨日、倉庫で俺を守ってくれた天和の姿を思い出すと、…… 「炎樽、また濃くなった。思春期のサガよのう」 「う、うるさい、黙れ」  ニヒヒと笑うマカロを無視して、俺は乱れて床に落ちかけていた布団を元へ戻した。  * 「今日は例のステッカー貼らなくて大丈夫なのか?」  目と鼻の先に学校があるお陰で、朝はだいぶゆっくりできたけれど──やっぱり正門の前まで来ると、昨日の連中の狂気じみた顔を覚えているだけに足が竦んでしまう。 「天和が守ってくれるから大丈夫だろ。昨日の奴らも一発殴られて、逆に性欲も飛んだだろうし。……まぁ、一時的にだけど」  俺の頭の上でマカロがぱたぱたと翼を振る。 「性欲を上回るくらい何かに夢中になれれば、炎樽に固執することもなくなるんだろうけど。それがない若い奴らってのは、エロいことまっしぐらの傾向があるからなぁ」 「……じゃあ、逆に天和みたく喧嘩ばっかりしてる奴の方が他で発散できるから、性欲も少ないってこと?」  マカロにではなく隣の天和に訊ねると、「自分じゃよく分からねえけど」と前置きした頼りない答えが返ってきた。 「俺は別に喧嘩よりセックスの方が好きだし」 「………」
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