たった一枚の・・・

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 「滝の見える所へ行きたい」 山道で拾った女性客は そう言って、後部座席で 目を閉じた。 持ち物は携帯電話ひとつ。 タクシードライバーを 長くしてるとね、解るんだ。  「この人の顔は、“後退“」 マイナスコートでも着ている 感じで、影が薄いんだよ。 もう長く熟睡してない身体は シートに埋まるように 眠りの淵に入り込む・・・。 そう、よく眠るんだ、 また苦悩はやって来るから。 業の起こした罪の深さに まだまだ悩みは尽きないさ、 それが罰であるからね。 でも、 明日から始まる新しい仕事は 罰と背中合わせに、 君が学んだ知恵で、 罪人と向き合うこと。 苦しくても前進出来るはず。 赦しの日が見えなくても この前進は君に充実を きっと、与えてくれる。 君は目覚めたら、大阪の片田舎、 小さな事務所の席にいる。 やり甲斐のある仕事が 君の手助けを必要とする人々が たくさん待っているんだよ。 代わりに、この携帯電話、 彼との写真を抱いたまま 滝に沈めておくからね・・・。                ー 了 ー  *『花泥棒』からの流れ作、   読んで貰って感謝です。   本日は只今より新作・中編   『恋 嵐』公開させて戴きます。   “大人”の皆様のみの   御招待になるのが心苦しい   のでありますが、どうか   御理解よろしくお願い      致します(* ̄∇ ̄)ノ           
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