雪降り

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雪降り

 窓には霜が降りていて、外の世界と中の世界を分け隔てるように外の情報を遮断していた。中から分かるのは外の色とその寒さだけだった。  「外は寒そうですね。今にも雪が降りそうだ。」  看護師さんがその問いかけに無難な答えを返してくれる。朝から看護師さんは忙しそうにたくさんの患者さんの世話をしている。一度、目を覚ましたがすることもしなければいけないこともないのでもう一度眠りにつくことにした。  僕が雪を初めて見たのは幼少期に祖母の家を訪れた時だった。親に連れられて訪れたそこは田舎というのが当てはまる過疎化した地域だった。ネット回線も整備していない、近くに知り合いもいない、遊べるような商業施設もない。両親が親戚と近況なんかを話し合ってる間、何もすることがなかった僕は窓の外を眺めて暇を持て余していた。一番歳の近い従妹でももう高校を卒業してしまっていたから、一人放っておかれていた。暇な間、出来る遊びは結露した大きな窓に指で絵を描くくらいのことで、描いては消し、描いては消してを繰り返していた。窓の半分の結露が解けて指が冷たく濡れたころ、空から一粒の雪が降ってくるのが見えた。ゆっくりと粒が落ちて地面に着くとその姿を消す。跡には濡れた地面が点として残る。気づくと沢山の雪がひらひらと舞って落ちる。地面は斑模様に色を変えて、全ての地面を塗りつぶす。見る見るうちに雪が積もって、雪にまみれた銀世界が広がった。当時、親に許しをもらって日が暮れるまで雪で遊びまわった。  目を覚ますともうすぐ昼になるほどの時間だった。窓の霜は取り払われて、外がはっきりと見える。病院の庭は広く散歩やかけっこをするには十分な多いさだった。入院している病院は総合病院だったが、外傷の人より体の中に病気を持つ子供が多くて昼は外で遊んでいた。僕は一人で外に出ることが許可されていないので、散歩するにも看護師さんと一緒にしなければいけなかった。看護師さんの手を煩わせるほど外に出たくはなかったから、昼食を食べ終わるともう一度眠りにつくことにした。  初めて彼女が出来た日も辺りを雪に包まれていた。その日は高校の卒業の日で、朝から何も持たずに教室で待たされていた。大学受験が終わっている人が大半で僕も、彼女も卒業したら遠くの大学に通うために一人暮らしを始める予定だった。別々の大学に進学することが分かっていたので、卒業すれば彼女と離れ離れになって会うことも出来なくなる。それを知った時に僕は卒業の日、告白をすることを決めていた。卒業式の記憶は曖昧にしか覚えていない。まあ、何となくこれまで経験した卒業式と変わらない形式を重んじた式だった。式が終われば朝の教室に戻されて、担任の先生や友達、仲が良いとも悪いともいえないようなクラスメイトとの別れを告げて解散となった。解散されても大抵はまだそれぞれのグループで固まっていた。お別れ会や卒業旅行、あっちの方では早くも同窓会の話が挙がっていたりした。僕は彼女が囲まれていたグループから離れた時を見計らって、告白するために人気のない場所来てくれるよう伝えた。彼女は何とか理由を付けて一人で来てくれた。告白ははっきりと気持ちを伝えた。差し伸べた手を握られたときは飛び上がりそうなほど嬉しかった。教室に戻ってお互い友達に先に帰ることを告げて、学校からの帰りは二人きりで帰った。昇降口を抜けると雪が降っていた。寒くて二人で手袋にマフラーを巻いた格好になった。一緒に帰る二人の身体に触れた雪が静かに溶けていた。
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