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二人の休日
「お客さま。こちらの商品はオーダーメイドになりますので、後日、お届けに上がる予定となります」
「え?そうなんですか…。どうしましょう、カイリさん」
街一番の賑やかな通りにある雑貨屋でお店の雰囲気にぴったりな棚を見つけ、そのまま勢い込んで店員さんにこれください、とお願いするとそんなふうに言われてしまった。
「今日、持って帰れるものとばかり思っていました」
「こちらはお見本となります。サイズもお好きなように指定できますよ。1ヶ月ほど、かかってしまいますが…」
「リエル。待ったらいいのではないか。これが気に入ったのだろう?」
「ええ、そうなんですけど…」
今すぐ欲しいです、とわがままを言いそうになるのを口をへの字にして我慢した。こんな、子供みたいではダメだよね。
「店主、なるべく早くお願いしたい。どうも待ちきれないようなので」
「あっ、はい。かしこまりました。出来上がりしだいお届けにあがります!」
いつもは誰にでも丁寧な接し方なのに、カイリさんが強く出ているなんて珍しい。
「リエルがとても、とてもほしそうにしていたので…」
目が合うとふふ、と笑われた。どうも、見透かされてるみたいで恥ずかしい。
「それではご自宅の場所をこちらに…。奥さま。お二人の新居のほうでよろしいですね?」
「は?」
「え?」
一瞬意味がわからず面食らう。
「ち、違いますちがいます、あの、お店です。お店に、ええと、あちらの通りのパン屋です、ええと、そこへ、えーとえーと…」
ほんの数秒前と打って変わって一気に真っ赤にのぼせてしまったカイリさんの方を見ないように慌てて訂正して手続きを済ませた。逃げるようにしてお店を後にする。
「……、早く届くといいですね」
「そ、そうだな」
「…お金も払ったから、早くきますよね、きっと」
「その通りだな」
「……」
「……」
石畳みの道を、無言でふたり、歩いていく。午後遅い光がさまざまな店先をのんびりと照らしていた。春の気配はまだ先だけど、少しずつ日差しは柔らかくなってきている。
「……寒くないか?リエル」
「…はい、大丈夫です。カイリさんは?」
「俺は、俺たちはもともと寒さに強いんだ」
「そうだったんですね。あ、カイリさんのマント、そのブローチピンがとてもステキだなっていつも見ていました」
彼の胸もとのピンは、見たことのない動物を象ったもののようだ。嵌め込まれた紫色の宝石が日差しにゆるく瞬く。
「ああ、これは、俺たちの一族の紋章だ。頭領には大勢の息子がいるから、国では結構よく目にする」
「じゃぁ、イリヤさんも同じものを?」
「ああそうだ。普段身につけているかどうかは分からないが。くそダサいと前から言っていたからな」
「なんだか、イリヤさんて、面白いですね」
「そうだな、兄にはいろいろ敵わないと思うことが多いが、自分の意思が強いのは羨ましいな」
あ、と彼が前方に目を凝らした。
「リエル、あそこで市のようなものをやっている。向こうの広場だ。見てみないか?腹が減っただろう」
「ほんとうだ…いつものおやつ兼お昼の時間からだいぶ経っています。どうりで、さっきからお腹がぐうぐうなっていたはずです」
「君はわりと、よく食べるようになった。はじめは驚いたんだ。あまりに少食だから」
「カイリさんと比べたら、誰でも少食だと思いますよ?いちばんうえの兄様だって、そんなに食べなかったですもの」
無言で穏やかに頷く彼に、少し、兄様の話をした。いつもわたしをからかって泣かせて、父様に怒られていた兄様のこと。彼を見上げながら話していると、なぜか、悲しい気持ちと、柔らかなきもち、どちらも湧いてきた。
広場に並ぶ市が目の前に見えてきたのに、もうすこし、聞いてほしいとさえ思えてきたのだ。
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