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同窓会
「楢葉って今何してんの?」
「楢葉?楢葉広美?ひきこもりって聴いたけど」
「ひきこもり?楢葉が?マジかよ」
「あれっしょ?あの事件」
「え?楢葉巻き込まれたの?」
「銀行にいたらしいよ、殺された銀行員の近くで目撃したって」
「銀行強盗が殺人はダメっしょ」
「で、楢葉はひきこもりってか」
同窓会の会場は楢葉広美の事ばかり話がされていた。銀行強盗が押し入り勇気を出した銀行員が楢葉広美の前で無惨にも殺された。ニュースにもなった山形の事件だ。
俺はそんな話ばかりするのですっかり覚めていた。話題を変えろ、と叫びたい。楢葉広美は俺の初恋の人だった。ニュースで観て、同窓会は来ないかもなと予想はしていたがひきこもりにまでなっていたなんて。
「中条、お前楢葉の事好きだったよな?」
覚えている奴はいるものでからかいの対象になりそうな予感を覚える。
帰るか?楢葉広美に会えないならいっそ帰ってしまった方がいいかもしれない。
「告白したんだよな?中条」
「あぁ、その後クラス中に広めたろ?楢葉に告白したって」
忘れてない。楢葉に告白した次の日にはクラス中に広まっていた。恥ずかしい過去。
「そうだったなぁ」
羽田は張本人の癖に惚ける。知ってるんだぞ。
「羽田、お前が広めなかったら、違った未来があったと思うよ」
俺は言った。
「バレてたか」
羽田はニヤニヤしながら言った。
俺はため息をつく。違った未来かぁ。あったのかなぁ?楢葉広美は告白の後、広まってしまい俺を避けるようになった。返事もないまま時が過ぎた。羽田が広めなかったら返事くらいはもらえただろう。
「俺帰るわ」
俺は言った。同窓会を途中で抜ける事を伝え外に出る。ため息をつく。
「ため息かぁ」
羽田がいつの間にか背後にいた。
「俺も帰る」
羽田はニヤニヤしながら言った。
「羽田、楢葉の家を知ってて連れていくとか考えてないよな?」
「中条、お前人の心読めるのか?」
羽田はバカにした言い方をする。
「新築西通り沿いのマンションに住んでるよ、楢葉広美は」
と羽田は俺の顔を覗きこむ。
「ストーカーしに行くのか?」
「アホか」
俺は羽田と別れタクシーに乗った。
羽田にはああ言ったものの楢葉に会いたい。
運転手に目的地を告げる。
立派なマンションだった。
楢葉の住んでるマンションの前でタクシーを降りた。自販機で珈琲を買う。その場で飲む。来たはいいがどうするか考えていない。所々街灯の灯りで見えるものの暗い。これじゃ不審者だ。帰ろう。と思った瞬間首が締め付けられた。背後にいつの間にか男がいて俺の首をヘッドロックしている。気が遠くなる。ヤバい。苦しい。息が出来ない。意識がとびそうだ。
俺は意識を失った。
中条?中条?声が聴こえた気がした。
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