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Prologue
土砂降りの中、武士に守られた駕籠が粛々と進んでいる。通りは猫の子一匹見当たらない。雨で霞んだ先に五人の男が現れた。頭巾を被り顔を隠している。腰の刀を抜き放つと駕籠めがけて疾駆した。後ろからも五人が迫り来る。どうやら挟み撃ちに合ったようだ。陸尺は奇声を発すると駕籠を置き去りに逃げだした。襲撃者は陸尺には目もくれず駕籠に殺到する。守るは武士四人と侍女二人、怒号と剣戟の音は激しい雨音が消し去ってしまう。駕籠は横倒しになり中から姫様が転がり出る。場所は長屋の狭い路地の前、這い出した姫様を守るように駕籠が路地を塞いでいる。
次々と武士が倒れる中、一人の老武士と老侍女が駕籠の前へ立ちはだかった。最早姫様を守る者はこの二人しか居ない。
「今まで世話になったのう」
老武士が刀を構えながら笑顔を向けた。
「わたくしの方こそ」
老侍女も笑って答え、懐剣を強く握りしめた。
絶体絶命にもかかわらずのんびりしたやり取りである。
二人に迫る賊の足が止まった。
命を捨てた者は生を欲する強者より危険であることを、この襲撃者は知っていた。
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