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朝は出勤する父と一緒に『青和』へ行く。ランドセルを背負った俺とコハルは並んで登校していた。
滝口村の東側は木が多い。その為か家の近くの空気はとても澄んでいる。お腹いっぱいに空気を吸い込むと全身が目覚める感覚がとても心地良い。それが俺──桐也の幼い頃からの日課だった。
だがランドセルを背負った俺は校門を一歩入っただけで息苦しさを感じた。
吸い込んだ澄んだ空気も一瞬で汚れていくような妙な感覚。
隣のコハルを見るといつもの無表情な顔に、初めて眉間の皺を見た。
「コハル、息苦しいね?」
コハルは制服のポケットから白いハンカチを出した。それを広げて、半分に、
破る──
それはハンカチではなかった。『青和』で作られる和紙であった。
「桐也に半分あげます」
そう言って半分の和紙を受け取ると、刹那──
息苦しさが緩和した。
不思議だった。けれど何となく納得していた。この和紙はコハルの父親──ハルキさんの漉いた和紙だと思って納得した。
桐也の父親はいつも言っている。
「ハルキさんの和紙は誰にも真似出来ない。不思議で美しい和紙なんだ」と。
だから父親の尊敬するハルキさんの和紙ならどんな不思議も享受できる。
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