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春──
桜を見ると、真っ先に浮かぶのはあいつ。
正しくはあいつの着物だけれど。
あいつは移り変わる四季など関係なしに年中桜柄の着物を着ていた。
着物は何枚も何枚もあるのだと思う。桜柄の着物だけが舞落ちた花弁のように数え切れない程たくさん。
あいつは俺ん家の隣に住んでいる。
いや、第三者から見ればあいつん家の隣に俺の家がぽつりとあると言うだろう。
あいつの家は大きい。屋敷だ。
そしてその広大な敷地内に工房を構えている。──和紙作りの工房。俺も俺の父もそこで働いている。
和紙工房の名は、『青和』
それが、あいつ──青木コハルの家だ。
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