終、柚子の木の下で

5/6
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/34ページ
柚子の花も実も成っていないのに、どこからか柚子の爽やかな匂いが風に運ばれて来た。 『桐也、あのような紙屑では小春(コハル)は守れぬぞ。良いか、しっかり鍛練せい』 それは市松人形の口から語られている。 初めて目にした時は吃驚(びっくり)したが、青木家には不思議が溢れている。 市松人形が喋っても、動いても、または違う物が視えても、もう驚かない。 コハルと一緒にいると、そういう物をよく感じ、よく視た。 「柚宇姫、桐也はよくやってますよ」 『甘いな小春。あのようにごつい紙では札も人形(ひとがた)も作れぬではないか』 「それなら私が漉きますよ」 『甘い甘い、春樹(ハルキ)よりも良い紙が作れなければ(わらわ)は認めぬからのう』 散々な言われようだが、仕方ない。認めて貰えるまでしかと精進しなければ。 父に認められ、 ハルキさんに認められ、 柚宇姫に認められ、 そして、何よりコハルに認めて貰うために。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!