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柚子の花も実も成っていないのに、どこからか柚子の爽やかな匂いが風に運ばれて来た。
『桐也、あのような紙屑では小春は守れぬぞ。良いか、しっかり鍛練せい』
それは市松人形の口から語られている。
初めて目にした時は吃驚したが、青木家には不思議が溢れている。
市松人形が喋っても、動いても、または違う物が視えても、もう驚かない。
コハルと一緒にいると、そういう物をよく感じ、よく視た。
「柚宇姫、桐也はよくやってますよ」
『甘いな小春。あのようにごつい紙では札も人形も作れぬではないか』
「それなら私が漉きますよ」
『甘い甘い、春樹よりも良い紙が作れなければ妾は認めぬからのう』
散々な言われようだが、仕方ない。認めて貰えるまでしかと精進しなければ。
父に認められ、
ハルキさんに認められ、
柚宇姫に認められ、
そして、何よりコハルに認めて貰うために。
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