氷点下零度から。

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氷点下零度から。

季節は1月下旬。 冬真っ只中で、雪の降った今日は今年一番の寒さだってお天気お姉さんが言ってた。 それなのに、そんなに寒いのに、マフラーも手袋もつけない人がいた。 毎朝見るその人は同じ学校の先輩。 寒がりな私はマフラーも手袋も耳あてもして、完全防寒。 目の前にいる人と同じ世界にいるなんて信じられないくらいの着込みだ。 こんな雪の日に、急な階段を登って帰宅する彼の手は真っ赤。 「ばかじゃないの。」 あっ…… 「……え?」 やべ。 心の中で言ったつもりが……。 「今、俺に言った?」 もちろん、周りには私しかいない。 「えっと〜……」 言い逃れができない。 「ばかって、俺に言った?」 まっすぐ見つめてくる。鼻を真っ赤にして。 ……決めた。 「はい。あなたに言いました。」 言ってやった。 ずっと言いたかった。 「……え?」 「いつも思ってたんです。こんなに寒いのに手袋もマフラーもしないで歩いて。ばかだなって」 「……いつも?」 「はい。通学路途中から一緒なんですよ。だから、毎日後ろから見てました」 「俺のこと……?」 「そうです」 「ばかだなって……?」 だからそう言ってるじゃん。 「はい。ばかだなって。」 「えっと、はじめまして……だよね?」 「はい。はじめまして。」 「はじめまして。の人に失礼じゃない?どこがばかだって?」 「だから!こんなにクソ寒いのに手袋もマフラーもしないで鼻真っ赤なトナカイでカッコ悪いなって!!」 「そんなの人の勝手だろ?!」 「でも寒いんですよね?!手袋とマフラーしたらあったかいのに!なんでしないんですか?!」 「別に、したくないからしないだけだし!君は手袋もマフラーもして、あったかそうだね!?」 何この人。ムカつく。 「ええあったかいですよ!!……わかりました!これあげます!どうぞこれ使ってあったまれですクソトナカイ!」 日本語ぐちゃぐちゃ。 私は受け取ってもらえなかったら困るので、ポケットにあったそれを真っ赤なお鼻のトナカイさんに投げつけて急いで階段を駆け上がった。 「は?!トナカイじゃねーし!俺には綾瀬拓人って名前が……っておい!……しかもこれカイロじゃねーか!いらねー……」 トナカイさんの声が遠くなる。 これで少しポケットが軽くなった♪ あやせたくと? たくトナカイ……。ちょうどいいじゃん。トナカイさん。 ーーこうして知り合い(?)になったトナカイさん。 翌日からは手袋をして登校するようになっていた。 しかし、何故か校門をくぐって1年と2年で別れる校舎の道までくると手袋を外す。 どうせなら教室までつければいいのに。 どうして? 私が見てるところだけ付けてるっていうの? でも、外してるところも見ちゃってるのよ私。 意味わかんない。 寒いんじゃないの? 「ねえ、どー思う?」 お昼休み、友人の実花に聞いてみた。 「んーでも結構いるよ?ダサいからーってつけない奴」 「でもきっと、かっこつけなわけじゃないのよ。他になんの理由があると思う?」 根拠はないけど、きっとそう。だって手袋はつけるんだもん。 「ちなみに誰の話よ?」 「え?」 「誰かの話でしょ?」 「えっと…トナカイさん……」 「トナカイ?」 名前なんだっけ。となかい。なんとかとなかい……。 「あ、たくとだ!たくトナカイさんだ!えーっと……あ、あや……あ」 「もしかして綾瀬拓人先輩?」 「そう!その人!」 ん? 「え、実花知ってる人??」 「知ってるっていうか、うちのサッカー部よ」 まじか! 実花はサッカー部のマネージャー。 そりゃ知ってるわ。 「何、梨花、拓人先輩と知り合いなの?」 「知り合いというか……通学路が同じでさ」 「えーいいなあ。」 「あ、ねえねえ同じ部活なら今度さ、なんでマフラーしないのか聞いてきてよ!」 「んー覚えてたらね」 やった。 これで理由がわかる!
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