氷点下零度から。

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「ママー!マフラーの編み方教えて!!」 私は早速、帰宅して、手芸の得意な母に編み方を教わった。 バイトのしてない学生にはマフラーを買ってプレゼントすることはとてもじゃないが無理だった。 だから私は不本意ながらあの真っ赤な鼻をしているトナカイさんにマフラーを手編みでプレゼントすることにした。 どうやらカシミヤやメリノウールが肌には優しいらしいので、家にあったママのカシミヤの糸を貰って編んだ。 思っていた以上に編み物は難しくて、何個も失敗作が出来た。 ちなみにトナカイさんは、登校時に会えなかった日からインフルエンザにかかっているらしい。 会えなかった期間、挫折しそうにもなった。 だけど2月に入った頃、インフルエンザから復活したトナカイさんをみて再び熱を取り戻した。 あの、サッカー部のくせに真っ白な肌にマフラーをぐるぐるに巻き付けてやりたい。 なんとしても。 あの首元にマフラーを……。 ーーそして二週間ほど経ち、やっと。 「出来た!ママ!!どう?!」 「……。うん、これなら人に渡せるわ!」 やっとカシミヤ100%のマフラーが完成した。 私は予め用意しておいた紙袋に丁寧に入れて、布団に入る。 明日、ようやくあの寒そうな首元にマフラーが……。 ふふふ。楽しみ。 実花にメール送っておこ。 "やっと完成したよー!" よし。 ……私は疲れていたのかすぐに眠りに入った。 ーーそして当日。 「梨花!!起きなさい!!遅刻するわよ!!」 私はアラームをセットし忘れて見事に寝坊。 急いで支度をして、マフラーと手袋はとりあえず手に持ち、カシミヤマフラーが入った紙袋を取って家を出る。 「いってきまーす!」 やばい。これじゃあいつもの時間にトナカイさんとの合流地点に行けない……!! 小走りで向かっていると、その合流地点で壁に寄りかかって立っている人がいた。 ……え? 「あ、きた」 トナカイさんだ。 「……え?」 「今日遅くない?あと5分したら俺が遅刻しちゃうからもう行くところだったよ」 いや…… 「えっと、なんで……?」 「なんでって、木下に、明日は君が何かしてくるだろうから気をつけてください、って言われて。そんなん言われたら君の前歩くの嫌じゃんか?だから君の後ろを歩いて行こうって思って待ってたの」 実花……。私がマフラー完成したからってトナカイさんの首を締めるとでも思ったのか……? 「あーえーっとですねー……」 「それか、なんか俺に贈り物あったり??」 「え?!」 バレた?! 「なんでわかるんですか!?こっわ、人の心読めるんですか?こわ〜……」 「は?」 「……はぁ。分かってるなら隠しません。あります。どーぞ!」 私は少し熱のある右手で持っていた紙袋を渡した。 「お、おうさんきゅ……って、なにこれ、マフラー?」 「はい、マフラーです!カシミヤ100%の、高級な一品です!どーぞ受け取りやがれ敏感肌トナカイさん」 「……え??カシミヤ??え?なんで俺が敏感肌って知ってんの??え?」 「実花から聞いたんです。トナカイさんは敏感肌だからマフラーしないんだって。そのカシミヤは、敏感肌の人でも使えるらしいので、寒そうなトナカイさんにあげます」 「え、てかこれもしかして手編み??」 「もしかしなくても手編みです。5万円のマフラーなんてアナタにあげるわけないでしょう」 トナカイさんは目を丸くして驚いている。 「いやいやいや手編みの方が……え、え??」 「なんですか??あ、巻き方わからないんですか??わかりました私が巻いてあげます!私この日を待ち望んでいたんです!!今、ぐるぐるに巻き付けてあげますね!!」 トナカイさんの手からマフラーを取って、呆然としているトナカイさんの首元にこれでもかというくらいきつく巻いた。 「痛い痛い!!死ぬ!!」 ……ちょっとだけ緩めてあげよう。 「うわ、あったけえ……」 お。 「ありがとーな、清水梨花!」 「いえいえ!……へ?!」 え?! 「今……っなんで私の名前!」 「木下から聞いた。マフラーってこんなにあったけーんだな。でもなんだ、俺チョコ期待してたのに」 実花……って、え? 「ちょこ?」 「ほら今日バレンタインじゃん?」 ……あ。たしかに今日は2月14日だ。 忘れてた……。 「ま、でも俺甘いもの好きじゃねーし、こっちの方が断然嬉しいわ。ありがとな!」 そー言って赤くない鼻のトナカイさんに頭を撫でられた。 「え?」 突然の行動に私は何されているかわからなかった。 「ていうか、今日はお前の方が寒そうだな!お前もちゃんとマフラーしろよ?……じゃ、俺行くわ!お前も遅刻するなよ!」 と思ったらトナカイさんはすぐに行っちゃって。 ……寒くない。今日は。暑くない? 胸の鼓動が聞こえる。 マフラーいらないくらい暑いよ今日。 行かないと。行かないと遅刻しちゃうのに。 ドキドキして走れない。 「わーーーー!!なんなんだよー!!!」 やっぱりもっとぐるぐる巻きにしてやればよかった!! 「待てーーーー!!!」 もう見えないトナカイさんの背中を追ったけど全然追いつけなかった。 あの人の体温を上げたかったのに、上がったのは私の体温で。 学校には到着した途端チャイムが鳴った。 「実花っ!!おはよーっ!!はぁっ……今日はっ……はぁっ…暑いね???」 「……走ったからでしょ。」 そうだよ。 この胸の鼓動も、そういうことにしておこう。
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