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行き現地集合だったように、帰りも現地解散になった。俺たちはこれからお土産を買いに行く。昨日、一緒にどうかと誘ってみたけれど、水族館に寄ってから帰ると言われてしまった。俺たちはスマイルのことがあるから、早めに帰ろうってことになって、駅で別れることとなった。
「それじゃあ、慶登、あんまり大須賀さんに迷惑かけないように」
「もちろんっ、郁兄も、健人さんと末永く」
並ぶと、雰囲気は似ている。学生の頃はちょっと有名な兄弟だったんじゃないかなって。シュッとしている郁登さんと、ほんわり柔らかな慶登。その二人が並んでいるところを眺めていると、ご両親はどんな人なのだろうと、ふと考えた。
「大須賀さん、慶登のこと」
「もちろんです。こちらこそ、本当に色々ありがとうございました」
笑った顔のほがらかさはそっくりだ。それとよくする首を傾げる仕草とそれにつられて揺れる猫っ毛も。
「じゃあ、俺たちはこれから水族館だから」
「うん。元気でね、郁兄」
「あー、それと」
「ほへ?」
ここでさようなら、と思ったら、何か忘れ物でもあったのか、郁登さんが戻ってきて、慶登のうなじをつんと突付いた。
「見えてるよ? キスマ」
「! えへへ」
しばらく学校の先生はおやすみだからとたくさんねだられて、たくさんくっつけた昨夜の印を指摘されて、慶登は慌てるどころか突付かれて嬉しそうな顔をしてる。
「ま、いっか。愛だからさ」
「うんっ、えへへへ」
弟の嬉しそうな顔と赤い印に兄は笑って手を振った。
この人の兄なんだ。真っ直ぐで、一生懸命で、めいっぱいに頑張る慶登の兄なんだって、慶登の華奢な背中を、颯爽と歩いていく郁登さんの後姿を見て、思った。
「郁兄、すごい幸せそうで嬉しいです」
「……」
「すこーし、なよなよしてるとこがあって心配だったんですけど」
「へぇ」
そうは見えなかった。しっかりとしてる人っぽいと思った。
「なんだか、素敵なカップルです」
もしも、郁登さんが変わったのだとしたら、それはあの隣にいる柔らかくておおらかそうな恋人のおかげなんだろう。
「よかった。僕、健人さんに兄のこと宜しくお願いしますって言って頼んじゃいました」
そんなのいつ言ったのかと思ったら、昨夜、酔っ払って転びそうになった時に、頼んだらしい。「もちろんですよ」と柔らかく頷いてもらって、ホッとしたんだと、千鳥足がむしろ心配だった慶登が安堵の溜め息をつく。
「なんか、良い家族だ」
「そうですか?」
兄は弟を思って、弟は兄を思って。きっとご両親がとても素敵なんだろう。
「いつか、保さんに紹介しますね」
「……」
「あ、うち、同性とか、ちっともこだわらないと思います。愛、が大事っていつも言ってる両親なので。だから、保さんのこと大歓迎ですよ」
「……そっか」
そういうの、自分にはなかった。同性を好きになることは俺にとっては。
「あぁっ!」
「慶登?」
「あ! あのっ、ご家庭それぞれってわかってます! その、教師ですから、親御さんにも色んな人がいるって、その……だから……」
犬を学校で飼うなんて言語道断だと乗り込んでくる親もいれば、授業参観でおしゃべりをしてしまう親もいる。と、思えば、学校の宿題が少なすぎると苦情を言う親もいて、愛が大事だと寛容な親も。それぞれの家にそれぞれの事情に、それぞれの親がいる。
「いつかさ……」
「保さん?」
「いつか、俺の生まれ育ったとこに連れて行くよ」
「……」
好きと声に出して伝えられた。
好きという気持ちを持てた。
好きな人ができた。
だから、変わりたい。
「いい? けっこう田舎なんだけど」
「! は、はいっ! もちろんです!」
だって、慶登のお兄さんに頼まれちゃったし? きっと、お兄さんにとっても宝物だったんだろう弟を託されたらさ、そりゃ、少しくらいは、ね。
「あ、そうだ。慶登、これ」
「?」
「あげるよ」
君の憧れ、ヒーローマンほどの筋骨隆々は無理でも。
「……えぇぇっ!」
白く綺麗な、そして昨日、俺にぎゅっとしがみついて離れなかった愛しい人の優しい掌の中に、ぽとりと落ちた、小さなヒーローマン。
「泊まりたいって言ってたでしょ? そこの限定キーホルダー」
「えぇぇぇぇ!」
「押すと、目からビームが出るらしいよ?」
「おおおおお!」
教えてあげると、素直に頭のボタンを押した。すると、高らかな笑い声と共に、目玉からか細い光線が発射される。もちろん、慶登はそのくりくりな瞳から同じように、いやそれ以上のビームを出しちゃいそうなくらいに目を輝かせて、その斬新な仕掛けに頬を赤らめた。
この前、それが数日限定でアニメショップで売ってたんだ。コラボをしてたホテルのサイトを見てたら小さくそのことが記載されていたから。学校が終わってから、こっそり買ってきた。
慶登の驚く顔が見たくて。
喜ぶ顔が見たくて。
「あの! ありがとうございます!」
「どういたしまして」
「うわぁぁ! すごくすっごく嬉しいです」
「それはよかった」
臆病者で、だらしのなかった俺だけれど、君を想う時は少しばかり強くなれる。隣に立つ君にふさわしい男になれるようになりたいと切に願う。
君のヒーローマンに。ずっと、この先もずっと、真っ直ぐな君を丸ごと受け止める男に。
――おはようございます……保さん。
今朝、目を覚ますと、愛溢れる行為に蕩けた君の笑顔が目の前にあった。俺の寝顔を見ていたんだろう。ふにゃりと笑って、そう朝の挨拶をした。
――大好きです。保さん。
昨夜、敬語じゃなく、なんだかいつもよりも大胆なおねだりをしたことに照れて赤くなった頬が目の前にあった。
――えへへ……。
光溢れる朝を愛しい笑顔と迎える。
「さて、俺たちは帰ろっか」
「はい! スマイル、元気にしてますかねぇ」
「帰ったら一緒に」
「お散歩! しましょうね」
どうか、いつまでも、零れるほどたくさん降り注ぐこの幸せがいつまでも続くことを、心から願って、君と手を繋いで、ゆっくり歩いた。
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