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次に気がつくと、俺は食卓に座っていた。
ふと、食欲がそそる匂いを感じて視線を下へ向ける。
そこにはスプーンと、器に半分しか盛られていない具の少ないクリームシチューがおいてあった。
このとき俺は、机が普段よりも高い事に気づき、自分の手を見る。
眼下には、子供の左手と右手があった。
さらに俺は周囲を見回す。
食卓には他に、小学生から中学生くらいの子供が五人と修道服を着た女性が一人居る。
石造りの壁は、ところどころヒビが入っていて、かなりの年季を感じさせる。
修道院……なのだろうか?
しかし、どうして俺が修道院に居るのかがまるで理解出来ない。
「それでは皆様、お祈りをしましょう」
修道服を着た女性がそういうと、他の子供達は手を合わせて目を閉じる。
ここで自分もそうしなければ不審がられてしまうと思った俺も、とりあえず同じ様に振舞った。
「はい。どうぞ召し上がれ~」
『いただきまーす!』
そしてお祈りの時間が終わると、子供達は堰を切ったように食事にがっつきだした。
周囲は食器とスプーンがこすれる音や、シチューを啜る音しか聞こえない。
俺も食事を取ろうと、スプーンを手に取った。
だが、今のこの自分が置かれている状況が気になってしまい、そのまま動かず考えてしまう。
俺はクソビッチに、史上最強のスキルが欲しいと願った。
そして今、修道院で食事をしようとしている。
こんな風景は、俺が住んでいたとこにはない。
俺が死んだのは間違いない。
だから恐らくは、異世界に転生したのだろう。
ラノベを読んでいたから、そこまではどうにか理解出来る。
だが、何故修道院なんだ?
子供達は少ない食事にがっついているし、よく見れば着ている服や食事が盛られた器はどれもボロボロだ。
どうみても裕福そうではない。
仮にクソビッチが俺の願いを叶えて、最強のスキルを与えたとして。
それが”金や出自に困らない能力”ではないという事は、今の境遇から察する事は出来るが……。
……駄目だ。
解らない事だらけだ。
「タロ、どうしたんだ?」
「今日はお前の大好きなシチューだぞ?」
その様子を見た他の子供は、自分の食事を早々に平らげた後に、俺にそう話しかけてきた。
俺の思考は、彼らの言葉によって遮られてしまう。
「え? あ、ああ。うん」
なんだかよく解らないが、ここで変な言動をして周囲に不審がられてしまうのは損だ。
そう思った俺は、適当な相槌を返した後に止めていた食事の手を進めようとした。
その時だった。
今まで静かに食事を取っていた修道服を来た女性が、俺の目の前に来る。
「タロ君、どうかなさいましたか?」
彼女はしゃがむと、まるで小さな子供をあやすように俺へと接してきた。
今までの出来事や彼女の言動によって、俺もまた周囲の子供と同じくらいだという事を確信した。
だがそれ以上に、修道服を着た女性がとても清楚で綺麗な人だったので、思わず魅入ってしまった。
「あー! さてはシスターの事が好きなんだなー!」
「こらこら、茶化したら駄目ですよ」
周囲の子供の発言に、シスターは笑顔で彼らをなだめると……。
「別に慌てる必要はありません。でも冷めないうちに召し上がってくださいね」
「う、うん……」
彼女は優しい微笑みをしながら俺の頭を撫でて、止めていた食事の手を進めた。
それはシスターにとって、ごく普通の仕草なのかもしれない。
しかし、前世で異性に全く相手されなかった俺にとっては特別であり、今まで感じたことの無い胸の高鳴りをシチューをかきこむ事でどうにか抑えると、この世界をもっと知るべく建物の外へと出て行った。
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