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プロローグ
どんな自分になりたいかなんて聞かれても困る。
将来の夢なんて私には決めることも出来ない。
十七年間しか生きていない高校生に、世の中の職業とか、未来の生活とか分かるわけないじゃん。
クラスメイトは、それをみんなの前で胸を張って発表したり、配られたA4用紙にそれっぽい字面でしたためたりする。
そして、先生は訳知り顔で頷く。
それって、どこか本物じゃないよね? って気がするのだ。
満開の桜の木の下で、空に向かって右手を伸ばす。
春の光は幾重にも重なる花びらのベールを透過して、私の指をすり抜ける。
私は一体、どうなりたいのかなぁ? 何になりたいのかなぁ?
十七年間、私も私なりに、それとなく、普通に、中くらいには生きてきたつもりだった。
でも、未来はいつもあやふやだ。
赤くも白くもならない、ふわふわした桃色が宙に舞う。
いつもの通学路にある公園。四月の登校日初日。高校三年生の始業式。
昨日は春休み最後の日で入学式だったけれど、私は行っていない。
入学して、もう二年が経つんだなぁ。
「花の女子高生」だなんて言ったらちょっと古い感じがするけれど、中学生の時には女子高生っていう言葉はどこか憧れだったな、って思い出す。
今日、私、成瀬みずきは高校三年生になります。
春を吹き上げる一陣の風。
陽光の割にまだ肌寒い春風が、時折吹いてはいくつもの花びらを空にさらっていった。
気持ち良さそう。
私もさらわれたいな……なんてね。
空に舞った花びらは、どこまでも可能性を抱いたまま、その向こうへと飛んでいくのだろう。
――本当にそう?
現実は違う。
現実の風は、公園の土かアスファルトへと、桃色の花びらを落としてしまう。
だけど信じたい。いつか空に舞う。希望は捨てなくてもいいんだって。
それって、でも、ファンタジーなのかな? 分かんないけど。
ちょっと朝からホッコリしようと、自動販売機のボタンを押して、財布のままICカードを当てる。
ガタリと音が鳴って、落ちてくる。温かいほうじ茶は好き。
素敵な桜だったから、少し早めに家を出た登校日の朝に、もう少しだけ眺めていたくなった。
ゆっくり桜の木を眺められそうな場所を探す。
木製のベンチが絶好の位置にあった。
でも、その長椅子にはネイビーのトレンチコートを羽織って膝の上に分厚い本を開いた先客。
ネイビーブルーのコートを羽織った男の子がその右端を陣取っていた。
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