プロローグ

3/4
19人が本棚に入れています
本棚に追加
/84ページ
 彼の視線は膝の上ばかりに落ちていて、全く桜の空を見ていない。  そんなにその横書きの本に書いてあることが面白いのだろうか?  ――ちょっとだけ気になった。 「……何?」  目が合って怪訝そうな瞳。  あ、やばい。気付いたらガン見しちゃっていた。 「あの~、えっと、星奏学院高校の生徒ですよね?」 「……そうだけど?」 「私も。あ~、何年生かな~って、思ったりして」 「……三年だけど?」 「え? あ、同級生?」  人差し指を自分に向けたり彼に向けたり、行ったり来たりさせる私。  あまり知らない顔だったし、話したことも無い気がする。  そんな私に、彼はコクリと頷いた。  そっか、三年生か。でも、確かに。私よりも、大人っぽい感じだから、そりゃ三年生だよね?  一学年六クラスもあるから、顔を覚えていない男の子がいても不思議はないかな? 「えっと、私は――」 「知ってるよ。成瀬(なるせ)みずきさんだよね? 図書委員の?」 「あ……うん。そう」  一方的に知られていた。しかも下の名前まで。  なんだか申し訳なくて、穴があれば入りたい気持ち。 「それ……、何を読んでいるんですか?」 「それって? ……これ?」  膝の上の本を、シャープペンシルで指差す彼。私は無言で顎を引く。  踏み込みすぎただろうか?  ほうじ茶のペットボトルをギュッと握った。 「……なんで?」 「えっと、なんだか気になって。……だって、すごく、集中して読んでたみたいだから。そんなに面白い本なのかなぁ~って」  彼は一つ溜め息をつく。  私の言葉がまるで見当違いだと言わんばかりに。 「『面白い本』か。まぁ、否定はしないけれどね。でも、それは図書委員の成瀬さんが思う、『面白い本』とは、随分と意味の違うものだと思うよ?」  なんだかその言葉は、どこか上から目線で、少し癇に障る声色を含んでいた。  『どうせ君には分からないよ、この本の良さはね』とでも言いたげな。  何を小癪な!   彼はきっと、私が図書委員だから、一般文芸しか読んでいないと思っているのだ。  図書委員は全員、文芸読みという偏見!   そうに違いない。でも、私、成瀬みずきの読書の幅はそれに留まらない。  ノンフィクションから古典、純文学からライトノベルに至るまで、幅広い作品をカバーしているのだ。甘く見てもらっては困る。――ふふん! 「そ……そんなことないと思うよ? こう見ても私、結構、読書の幅は広い方だから、大体の本は守備範囲に含まれるから」 「じゃあ、ちょっとだけ読んでみる?」 「――うん」  眼鏡の奥で悪戯っぽく光る瞳になんだか射竦められながらも、私は頷いた。  ほうじ茶を一口飲んで、鞄にしまう。
/84ページ

最初のコメントを投稿しよう!