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「え?」
「お前が無理をすれば心配するし、お前が部活で活躍すれば嬉しい。俺は大学に雇われた校医だが、お前の友達くらいにはなれるぞ」
堪えていた涙は、とめどなく流れてくる。車は病院に着いたらしく、先生は入口に近い駐車場に車を停めた。
「何故泣く? 足が痛いからか」
「痛いけど違います」
助手席から降りようとする私を制し、彼は素早く降りると私を再び抱えた。姫抱きで。
「先生、おんぶの方が嬉しい」
「面倒だからこれで良いだろ。すぐそこだし。それよりもお前の足優先な」
先生は私の足を心配してくれているだけなのに、期待してしまう私が居た。さっき分かんないなんて言ったけど、やっぱ彼に彼女が居るなんて嫌だ。
「どうした、足が痛むか」
「痛いのは痛いよね。でも今は胸の方が痛い」
「胸も悪いのか? 足の後に見えもらうか」
「そう言うのじゃないから良い」
先生には分かんないだろうね。
そう呟き、私は顔を伏せる。好きだから胸が苦しくなったり痛いなんて感覚は、彼には分からないだろう。
だって、姫抱きにして黙って抱かれてろなんて酷い殺し文句だ。彼みたいな人にこんなことされて落ちない女なんて居るのか。いや居ないでしょ。
苦しくなる胸を両手で抑えた。これ以上考えたらダメだ。先生の一番になるなんて、私には出来ないのだから。
「お前こそ分かってないな」
「何を?」
「……俺がこんな風に心配するのも、世話を焼くのもお前だけってことだ。紗智」
――さっさと気付けよ、俺は気が長くないって言っただろ?
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