恋煩い

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恋煩い

 翌日。  いつものように保健室に行くと、そこには先生ではなく別の産業医が居た。 「こんにちは」 「……こんにちは。神谷先生は居ますか」  私の言葉に産業医は驚いたような顔をして、こちらを見る。しかし、すぐにニコリと笑みを浮かべ首を横に振った。 「神谷は休みだよ。彼に用事があるなら伝えておこうか?」 「いえ、良いです。また明日来ます」  それだけを告げると、私は保健室をあとにした。  それから一週間、毎日保健室に行ったが先生に会うことはなかった。 「嫌われちゃったのかな」  何か悪いことしてしまったのかな。自覚ないけど、自覚ないのが一番たち悪いって言うし。先生も私の話ばかりで、つまらなかったのかもしれない。 「――神谷先生、会いたいよ」  幸か不幸か。彼に会えないことが気がかりだった私は、注意不足で怪我をしてしまった。いや、あれは嫌がらせがエスカレートしたことによる事故だったのかもしれない。  激痛が走る足を引き摺り保健室に行くと、先生が何事もなかったかのように保健室にいた。一週間ぶりの彼を見て、私は思わず涙目になる。 「神谷先生がいる」 「何言っているんだ。たった一週間、顔を合わせなかっただけだろ? 大げさな」 「大げさなんかじゃないよ! 急に先生が居なくなるから不安で仕方なかったんだから」 「あー、はいはい」  相変わらず適当に話を流す先生。私は彼の顔を覗き込みガン見した。 「何だ」 「怪我したの」 「そこ座れ」  言われた通り大人しく椅子に腰掛ける。彼は、机に広げていた書類を放置したまま私の足を見て目を細めた。 「お前、それどうしたんだ」 「紗智だよ、先生。排球していたら、うっかり怪我しちゃって」 「見せろ」  赤黒く腫れた私の足に彼が触れる。優しく扱っているのは間違いないだろうが、あまりの激痛に顔を顰めた。 「痛い」 「だろうな。骨が折れている」 「チームに戻れるかな」  それはお前次第だ。  先生は机の引き出しから鍵を取り出し、ポケットに突っ込む。  私はと言うと、悲惨な未来図を思い浮かべ心が折れそうになっていた。 「逆境の中で頑張るお前は、誰がどう見ても尊敬に値する。ただ、これ以上お前が無理する姿を見るのは耐えられない」 「先生は医者だもんね」 「医者だからじゃない。人生の先輩として、お前の心配をしている」  つかつかと私の元に戻ってきた彼は、真顔で姫抱きした。流れるような一連の動作に、思わず可愛くない声を出してしまう。 「神谷先生、何してんの」 「足が折れているんだ。すぐに病院に連れていく必要があるだろ。排球どころか、下手すれば歩くことすら出来なくなるぞ」 「でも今日は先生しか居ないし」 「構うな。お前を病院に連れていくのも、俺の仕事だ。――黙って抱かれてろ」
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