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乱暴な物言いにも関わらず、思わず顔を赤らめた。彼は自分がどれだけ魅力的なのかを理解していない。
医務室を出た所で、もう一人の産業医とすれ違った。彼は私と先生を見て、何かを察したように笑顔で医務室へと入っていく。どうやら、彼はしっかりと他の産業医を呼んでいたらしい。
じゃなくて! 絶対、あの人勘違いしているよね!?
「ねぇ、神谷先生」
「何だ」
「ごめんなさい」
「は?」
駐車場に停めてある車のところで、終始不機嫌そうな顔をしていた彼にそう言った。
「何故謝る?」
「先生に迷惑かけてばかりで」
「そんなことはない」
端的に答えた先生は、いつもと何も変わらない。私だけ赤くなって馬鹿みたいだ。
駐車場で車に乗り込むと、彼は素早くエンジンをかけアクセルを踏み込んだ。
「神谷先生」
「ん?」
「先生の運転、結構雑だね」
「雑で悪かったな」
「字は綺麗なのに意外」
そう言って、シートベルトを握りしめる。
いつもみたいに素っ気ない先生も魅力的だけど、荒々しい先生も素敵だ。彼の滅多に見られない素の一面を見られた気がする。
言いようもない幸福感に頬を緩め、彼の隣で助手席に体を沈めた。それに気付いたらしい彼は何笑っているのと不機嫌そうに口を開く。
「先生には秘密」
「何だそれ」
「いつか教えてあげるよ。今はまだ秘密だけどね」
ふふふ、と笑うと彼はますます不機嫌になる。少し難しい顔をして、黙ったままハンドルを握っていた。
「いつになったら、その秘密は聴けるんだ?」
「私が大人になったら、ね」
「俺はそんなに気が長くないぞ」
ブルルンと音が聴こえてきそうな速度で、先生は車を走らせる。果たして法定速度が守られているのかどうなのか、座席に深く腰掛けた私は確認のしようもないのだけど。
「そんなことより、先生って彼女居るの?」
「秘密だ」
「けち」
そう言って窓の外を眺める。彼は何も言わない。微妙な雰囲気が車内を漂い、表情を伺うも顔にかかった髪のせいで怒っているのか否かも判別出来なかった。
「神谷センセ、」
「居たら嫌か」
私の言葉に被せるようにして、彼はそう問うた。
「嫌……なのかな」
「質問しているのはこっちなんだが」
「そうだね。うーん、嫌だと思う。学校で私の心配してくれるのなんて先生くらいだよ。本当の友達なんて居ないしね。みんな上辺だけの友達だし」
彼は何も言わなかった。友達居ないことを茶化したりも、励ましたりも、貶したりもしなかった。
ただ静かに前を見据え、車を走らせながら私の頭を撫でた。撫で方は雑だったけどどこか優しくて、涙がこみ上げてくる。
「もうすぐ着く」
「そっか。ありがと」
「……お前の考える友達像が何なのかは分からない。だが、俺にとってお前がただの学生ではないのは確かだからな」
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