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体育の授業は散々だった。
オレはミツオの命令どおり、グラウンドの隅にいても聞えそうなくらいデカイ声で『ネズミはペストにかかって止まらないそうです』と言った。
武田は最初、オレが何を言ってるか分からなかったようで、オレは二度も『ウンコ』と言う羽目になった。
オレはクラスの男子から笑われ、武田に殴られたうえに、延々とグラウンドを走らされた。本当ならオレの好きなサッカーだったのに。
オレの声はミツオの希望通り、グラウンドの反対側にいた女子にも聞えていたらしく、授業が終わって着替えに戻る女子たちが、オレに冷ややかな視線や「サイテー」という言葉を残して通り過ぎていった。
オレは沸々と湧き上がる怒りを胸に、一人で教室へ向かう。
ネズミもそうだが、オレも友達がいない……高校に入ってネズミにターゲットが移るまで、オレはずっとミツオのターゲットだった。
高校入学一発目、クラスでやった自己紹介のとき、オレは汚れ芸人「フェラーリ千代ノ助」のモノマネを無理やりさせられた。
結果、オレは思いっきり外し、クラスの中で浮いた存在となってしまったのだ。
ミツオの「ネズミ狩り」が始まって、オレは万引きをさせられる事こそなくなったものの、こうして「ネズミ狩り」の一端を担わされると同時に、晒し者にされている。
女子が着替えに使っている教室の前に、人だかりが出来ていた。
オレは少し嫌な予感がした――ミツオが言っていた「仕事」は、女子の財布を盗むことだったのだろうか。
次の授業は妙にざわついていた。
といっても、この授業――古文は、念仏というあだ名を持つ定年間近の老教師が、チャイムが鳴るまでボソボソと喋っているだけで、ほとんどの生徒が聞いていないから、いつも騒がしいのだけれど……。
今日の感じはいつもと違っていた。話題はおそらく、さっきの事件。きっと、あっという間に何が起こったか広まり、その真相について様々な憶測が飛び交っているのだろう。
おそらく被害者は成田さん――学年でも一二を争う美人と言われている彼女は、体育の後、早退していた。
オレはチラリとミツオを盗み見る、ミツオは一番後ろの席で教科書を出しもせず、周りの男子と喋っている。何食わぬ顔で、ウワサに背びれや尾びれをつけているのだろうと思うと、腹立たしかった。
ネズミは机にかじりつくように、真剣にノートを取っていた――この授業を真面目に聞いている、数少ない生徒の一人だった。
オレは話す相手がいないので、興味がないフリをしながらひたすら聞き耳を立てていたけれど、結局のところ、何が起こったのかわからなかった。昼休みまでは。
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