kiss. 7

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◇  背中に感じる息遣いが耳に入り、瞼をゆっくりと開けた。寝返りを打つと瞼を伏せたあどけない寝顔が目に入った。おとはが胸を上下させながら、口から少しヨダレを出して寝ている。  思わず声を小さく出して笑うと、見ていた先の瞼が開いて俺を見た。  体がスッキリしている。  やっぱり、おとはと一緒に寝ると良く寝られる。スマホを探してどこに置いたかと顔を上げるとおとはが俺の頭に手を伸ばした。俺の頭を彼女は優しく撫でた。 「拓未、おはよう」  栗色の短い髪に少し寝癖がついている。  開けきらない瞼が可愛く、俺は彼女の体に両腕を伸ばして抱きしめた。胸に彼女の顔が来て、落ち着くのに落ち着かない、騒がしい気持ちになる。 「おはよう、おとは。よく寝られた?」 「寝られたよ」 「俺も寝られた。おとはの横は居心地がいいわ。ずっと一緒に居たいぐらい」  おとはは、俺の腕の中で、ふふふ、とまた短く笑った。  ずっと一緒に居たい。  別に1番じゃなくてもいい。  なんなら今は恋人でもセフレでもない。  じゃあ、俺がなれるものって?  コケ野郎と並べるだけのモノってなんだ?  自問自答する。  答えは簡単だった。 「昨日、コケ野郎と結婚の約束したって言ったな」 「うん、言ったよ。守られてないけどね」  彼女の返事を聞いて、思った事がすぐさま口から出た。 「じゃあ、俺との結婚を考えてよ」 ーーーえ? 「え?」 ーーーー今、俺なんて言った? 「結婚?」  おとはが驚いたように俺の顔を見上げた。 「え、ちょっと待って、俺、今なんて言った?」  自分で言った言葉に狼狽える。 「……俺、結婚っつったな。え、マジか」  その様子を見て、おとはは声をあげて笑った。 「何、拓未。自分で言って、なんで言われたわたしより驚くわけ?大体付き合ってもないのに、結婚を言い出すなんてびっくり」  そうだ、恋人ならまだしも、ペットと同列な扱いだ。 「コケ野郎のことが1番で、おとはが好きな奴がいる事は知ってる。で、俺がなりたいのはセフレでも恋人でもない。家族。だから、結婚」 「家族……」 「そう、家族。好きじゃなくて、好きのもっと上の愛してるって感情だ、これ」  やっと分かった。  俺、おとはに対しての感情の答えをずっと探してた。で、やっと見つけた。おとはが好きだけど、それ以上に彼女の持っている気持ちも大事にしたいってずっと思ってた。そのためには自分に何ができるだろうってずっと考えていた。俺が持ってるもので全部やるって言って、近くにおとはが居てくれないと想いもあげたくても行動もできない。彼女を1番近くで満たしたい。 「えっと、あの、さ、篠原おとはさん」 「何、改まって」 「俺、おとはと結婚したい。返事は分かってるから今は聞かない」  おとはをもう一度抱きしめる。 「おとは、愛してる。これからいっぱい伝えるから、その気持ちが届いたら結婚して」  俺が発した言葉に対して、彼女は拒否も受容もしなかった。
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