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◇
心臓の音が鼓膜の横でボリュームを最大限まであげて、速さを増す。
口が渇いて、水だけでは潤せない緊張が自分を包んでいる。
おとはの腕を引いて、自分の家に帰って来た。この場所に女を入れた事はない。俺がセックスをするのは基本的に女の家か、ホテルだった。
玄関におとはを入れて、少しだけ冷静になったものの、さっきのおとはの「抱いて」が俺の中で巡っている。
言葉は熱を帯びて、生きてるみたいに俺の欲望に油を注いでいる。
欲望に支配されたくないのに、理性が崩れてどうにもならない。
おとはを家に入れて、玄関の鍵を閉めた。靴も脱がずに彼女を見つめて、下顎を支える。目を閉じた彼女にゆっくりと口付けた。
冬の風に潤いを奪われて唇は乾燥している。
角度を変えて、唇に二、三度キスをする。
キスの回数を重ねると、唇はしっとりとして、温度を上げた。
柔らかい感触だけでは刺激が足りなくなり、彼女の口の中に舌で入り込む。お互いの唾液がくちゃくちゃと音を立てて、舌が絡み合う。
肩を支える両手が震えそうだった。
熱い舌が返事するように、俺の口に入り込み、胸が締め付けられそうになる。
ヤバい、キスだけで、もう気持ちがいい。
痺れて、熱くて、甘く頭の中からつま先まで、麻痺しそう。
舌が熱を帯び、下半身に熱を運ぶ。身体が火照って、電流のような熱の波がぐるぐると身体の中を行ったりきたりしている。
心臓の音がどくどくどく、とこめかみで暴れている。
彼女は俺の体に腕を回した。
その瞬間、胸が痛くなる。
絡み合う舌を解く事が出来ずに、俺はおとはを抱き上げて、ベッドに運んだ。
ベッドに組み敷いて、くちゅくちゅと言う音を口から耳に抜けるように聞く。
ずっとキスし続けれる。
でも、体が我慢できない。
一旦、唇を離すと、彼女は名残惜しそうに俺を見た。大きな瞳が俺を写している。
「……そんな目で、見るな」
やっとの思いでそう言うと、おとはは、柔らかく笑った。
「そんな目って、ただ見てただけだよ」
右目の下のホクロ。
少し厚い下唇。
柔らかく短い栗色の髪の毛。
大きな瞳。
順番に見つめる、総てが愛おしい。
「おとは、好きだよ」
まっすぐに彼女を見つめて伝える。
彼女は相変わらず返事をしない。
「俺、同意のない女を抱く趣味はない」
せめてもの強がりでそう言うと、彼女はまた穏やかに笑った。
「拓未、抱いてってまた言って欲しいの?」
見た目に反して凶悪な言葉。
屈折女はベッドの上でもひねくれている。
「俺の、名前を呼んで。俺が欲しいって言え」
おとはは、ふふふ、と溢れるように言葉を発した。
「拓未、抱いて」
鼓膜に抑揚のある声が甘く響いて、俺は何も考えられなくなり、彼女の頬に唇を落とした。瞼、頬、唇、首、鎖骨、胸、腹とキスを順番にして、唇に戻る。
唇に口付けをしながら、コートを脱がせて、ニットを捲し上げて、胸元にキスをした。ブラジャーのホックを外して、胸を露わにする。頂きは触れずに、周りを唇で愛撫して、指先で肌を辿る。鎖骨も、脇も、胸も、首も、指先と唇でおとはの素肌の輪郭を確認する。
腹部に口付けながら、スカートに手を伸ばして、見覚えがある服だと気づく。
一緒に買いに行った服を他の男と会うときに着ているなんて、本当に酷い神経をしている。この服は俺だけの、おとはのものだったのに。嫉妬と切なさと、どうにもならない独占欲が湧き上がる。
スカートを脱がせて、下着の上から彼女の甘い匂いが立ち込める場所に手を伸ばした。
胸の頂きを口にゆっくりと含み、舌で転がすと、ぷっくりと形がまるく主張した。
「……ん、あぁ……」
いつもと違う、艶の乗ったか細い声。俺を激しく揺さぶる甘い響き。
抱いて、と自分から誘った割に、控えめに喘いで感じる声に、身体が昂る。
指先を彼女の下着に手を伸ばした。上から下にかけて、短い窪みを撫でると、もうその場所は濡れていた。おとはは身を少しだけ捩り、俺を見上げた。
そのまま、下着に指を引っ掛けると、彼女は少し腰を上げた。剥ぎ取って、直接、指先で上澄みをすくうように軽く掻き撫でる。
胸を舌と唇で愛撫しながら、指先を滑らかに動かすと、潤いを増したことに嬉しくなった。
「濡れて来た。感じてて、可愛い」
耳に口を寄せて囁くと、彼女は一瞬にして赤くなった。
交尾って簡単に口に出すわりに、気持ちを口に出されることに慣れてない。
「おとは、可愛い」
「……あ、あん、まり、……い、わないでぇ…」
小さく吐息のような、微かに漏れる声が俺の耳に入って、たまらない気持ちにさせる。
早く繋がりたい。おとはを自分の物にしたい。
「……は……ぁん、」
本当に微かな声。もっと聞きたい。
「おとは、声出して。顔も見せて」
顔を覗き込むと彼女は顔を逸らす。
耳のピンクに興奮する。
「その色、ヤバい」
右手の指先を優しく前後に動かすと、さらに潤いの蜜が増し、ぬちゃ、くちゃっと卑猥な音がした。胸の頂を口に含んで甘噛みすると、やぁ、と小さく息を吐いた。
「声も可愛い」
ピンクの耳に口を寄せると、おとはは、もうっ、と非難と快楽が混じったような、恥を押し隠しきれない表情で俺を見た。
その顔に、益々、興奮してしまう。
可愛い。
もっと乱れさせたい。
溶かしたい、解けさせたい。
俺の動きで淫らにさせて、満たしたい。潤ませて、溢れさせたい。柔らかく、嫋やかに指先を絡め、蜜が増す。それに、指先がズブズブに溺れていく。ゆっくり、そっと内側から彼女の鍵を探す。
どこが敏感で、触れる強さは強めがいいのか、優しく触れているのがいいのか。
撫で上げたらいいのか、擦るのか、押すのか。掻き出すのか、掻き上げるのがいいか。
緩急を持った指先で、彼女を愛する。
「……たく、み、………丁寧すぎ、じゃ、ない?」
丁寧?
そんなに丁寧にしているつもりはないが、そう感じてくれるのは純粋に嬉しい。
「丁寧って、したいようにしてる。気持ちいい?」
見上げる瞳の瞼に唇を落として、頬にキスして、唇にもキスをする。全身に唇を落として、とろとろに溶かして、好きと愛を囁きたい。
俺の事しか見えなくなるぐらいに支配したくなる。
指先の愛撫に答えるように蜜が溢れ、音の艶淫が膨らむ。彼女が感じてくれていることが嬉しい。
好きな女を抱くって始まりからして、何気ないセックスと全然違う。心臓の音はどくどくどくどくって、早さが尋常じゃない。
余裕がない。
余裕が無いのに必死で余裕ぶろうとするからますます、緊張する。
素肌に触れてるって思うだけで、電気に近い興奮が身体を、駆け巡って、ざわついて、なんとか平静を装うのに必死。
色んな姿が見たくて、舌を全身に這わしてみたくなって、指先でどこまでも撫で上げたくなる。
そして、彼女と深く奥まで繋がりたい。早く繋がりたくて焦る俺と、勿体なくて繋がる事をいつまでも宝物みたいに取っておきたい気にもなる。
彼女の動きを1つも見落とさないようにしたい。声も聞きこぼしたくない。
指先に反応する彼女は身を捩って、潤んだ瞳で、声を甘く漏らして、俺をどうしようもない気持ちにさせる。
彼女の反応を見るために右手を離して、蜜が溢れて溶け出しそうな場所に口を寄せようとしたら、拒否された。
「……そこは、シャワー浴びてないから、ダメ。恥ずかしい」
恥ずかしがる彼女の顔を見て、無理にでも足を持って覗き込みたくなるが、そこは我慢して、俺は彼女をゆっくりと抱きしめた。
「おとは、愛してるよ」
彼女は頷かなかったが、赤い顔をして俺から目線を逸らした。
抱きしめる腕を解いて、俺は自分のシャツを脱いで、適当に投げた。ボトムス、下着を脱いで、おとはにキスを落とす。
ベッドの横の棚から、小さな袋を出して、ゴムを着けた。
上向きに寝た彼女の腰を持って、自分の体に引き寄せる。太腿に指先で触れて、肌を滑らせて窪みに指を深め、潤いを確認する。
どろどろで溢れて、柔らかい。
俺を受け入れる身体になっているのは明らかだった。
彼女の蜜口に俺自身を沿わせて彼女を見た。
潤んだ大きい瞳が俺を見上げている。益々、昂って、収まらない。
もう熱くて、火照って、挿入れたくて、繋がりたい。限界。
「もう一回、言っとくけど、本当に俺に抱かれた責任取れよ」
彼女はやっぱり返事をしない。
「もう体だけじゃなくて、心も抱いてやるから逃げるなよ」
俺はゆっくりと腰を押し入れた。おとはの顔を見ながら、ぐぐぐっと押し入れるとナカは熱く、うねっていた。ぎゅっと握られて、締めつけられる。ゆっくりと元まで貫く。
短く息を吐いた。
ヤバい、イきそう。
何、これ。動きたいけど、動けない。
挿入た時、おとはの顔が気持ち良さに歪んだ瞬間、達しそうだった。
あんなにイケなかったのに、一瞬で終わりそうだった。
息を吐いて、おとはの顔を見ると俺を見上げている。
「お、とは、動くけど、いい?」
ゆっくり、奥まで貫いた腰を少し引く。おとはは、んっ、と短く声を出した。
んっ、って可愛いすぎだろ。
腰を動かす速度をほんの少しだけ早める。
動きを増せば増すほど、快楽の波がすぐ来るから、迂闊にスピードを早められない。
ゆっくりと腰を動かして、息を吐いて、おとはの顔を見て、腰を動かしてのピストンを繰り返す。緩慢だけれど、貫く時は奥まで深く、繋がる。
「たぁ、くみ?」
名前を呼ばれると、途端に動けなくなる。
勘弁してくれと思う。
「おとは、っ、俺、持たないかも」
そう言って再び彼女の中に腰を進めると、ズンと締め付けられた。痺れる快感が結ばれた所から、腰椎の神経を通して全身に巡る。
「ちょっと、待って。ヤバいって」
イきそうなんだって。
言葉を無視して、彼女は俺の肩に腕を回して、顔を寄せて頬にキスをした。
「っは」
俺の口から小さく吐息が漏れるのを見て、おとは艶のある笑みを浮かべて、俺を押し倒した。
視界が反転する。
小柄だけど力が強い。
ベッドでもそれは発揮された。
視界に天井と彼女の意外に大きな胸が入り込み、ぷるんっと揺れた。
「っつ、おとーーー」
名前を呼ぼうとした瞬間に声を、唇で塞がれてしまった。
彼女から初めて唇にキスされた事実にどうしようもなく嬉しくなってしまう。
彼女が俺の上でゆっくりと腰を動かした後、俺は抗えない快楽の波に飲まれ、呆気なくイってしまった。
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