kiss. 7

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◇ 「拓未、拓未って」  おとはの声がするなんていい夢だと思って手を伸ばすと、ふわふわの毛が指先に触れた。抱きしめようと自分の腕に引き寄せると、胸のあたりで、もう、と言う少し不満を含んだ声がした。  柔らかくて、いい匂い。滑らかな肌の腰を抱きしめる。 「おとは、俺だけ気持ちよくなってごめん。やっぱ好きな女って特別なんだな。体も心も言う事、聞かない」  夢にしてはリアルだなと思って、髪の毛を指先でくるくると(もてあそ)ぶと、くすぐったいよ、と笑い声がして目を開けた。  部屋は薄暗い。部屋の弱灯がともっている。  薄灯でも分かる、大きな瞳が、俺を見上げていた。 「あ、夢じゃなかった」  俺の言葉におとはは、そうだね、と笑った。  え、じゃあ、セックスしたのも現実か?と思って、彼女を見ると服は着ていなかった。露わになった胸を見つめる。  すぐさま、抱きしめる腕を強くして自分の腕の中に彼女を閉じこめる。  逃げるなよと言っておいて、逃げられないのは俺だ。  おとはにどうしようもなくハマっている。  彼女が近くにいるだけで、嬉しくなる。  骨抜き、首ったけ、メロメロもう、どの言葉も当てはまってしまうほど、バカみたいに、とんでもなく惚れている。 「……もう、セフレと会うなよ」  恋人でもない俺が彼女をそこまで制限する権利はないが、どうしてもこれだけは言っておきたかった。 「……うん、それは大丈夫。寂しくなったら、拓未が抱いてくれるんでしょ?」 「……いくらでも抱くけど、ちょっと持たなかった。……おとはの事もっと気持ちよくさせたかったのに」  そこまで言って、俺の唇はおとはの唇で塞がれた。  飛び上がりそうなほど、嬉しくなる。 「おとは、俺と一緒に居て」  もうこれ恋人の関係じゃねぇのって言いたい。  おとはからキスされたって事は、おとはも俺の事嫌いじゃないって事だよな。 「ちゃんと付き合って」  その言葉に彼女は返事をしない。 「拓未はそこにこだわるけど……」 「そりゃ、こだわるよ。俺はおとはが特別って言ってる。俺もおとはの特別になりたい。コケ野郎が1番なら、2番でもいい。でも、恋人って約束がないとおとはとちゃんとした関係が築けないだろ」 「そうだけど………」  彼女はそこまで言って、言葉を出すのを躊躇(ためら)った。 「……なんか、思う事あるのかよ?」  言葉を促すように彼女を覗き込む。 「だって、………恋人になっちゃうと居なくなっちゃう。恋を信用してないだから身体だけでいいの」 「身体だけじゃないって言ってるだろ。俺の心もやるから、おとははもう何も無くさない。だから、恋が信用できないのなら、愛で繋がろう」 「愛で繋がる………拓未は一緒に居てくれる?」 「うん、ずっと一緒にいるよ。おとはが嫌になっても離れてやんない、約束」  彼女を抱きしめて、頭を撫でる。 「本当に? 拓未、私と一緒に居る? 恋人に「なる」  おとはの言葉を最後まで聞き取らずに、食い気味に秒で返事をする。  必死か、俺。 「恋人だよな?」  夢じゃねぇのって頬をつねってやりたくなる。 「他にセフレも作らない?」  俺が聞くと彼女は頷いた。 「交尾も色んな男としない?」 「うん」 「俺が、おとはの恋人でいいんだよな。え、すぐ結婚したいんだけど、それはどう?」 「どうって、まず、緑くんの事をちゃんと整理してからじゃないとダメだけど、拓未の事は好きだよ。チャイロとシロよりちょっと上」  ちょっと上。  昇格した。  マジか、やった。  でも、コケ野郎よりは下か。 「一緒に住むのは気が早い?」 「一緒に住むのはねぇ、陽一郎の許可がいるんじゃない?」 「……許可か。了解」  抱きしめたおとはの頬と額にキスをして、俺はスマホを探した。  ベッドの横に落ちているのを見つけて手を伸ばした。  すぐに陽一郎に電話を掛ける。 『……ん、律、何?』  眠そうな声で返事があり、左手首の時計を見ると午前1時。非常識な時間だった。 『あ、こんな時間にごめん。あのさ、おとはと一緒に住みたいんだけど……』 『……………は?』 『えっと、おとはと一緒に住みたいんだけど』 『いや、2回も言わなくても聞こえてるしって、今一緒に居るの?』 『うん。で、俺、おとはの恋人になったから、一緒に住みたいんだけど、いい?』 『……いや、いいも、何も、本気?おとは緑くんが1番だぞ』 『それでもいいって、本人には言ってる』 『いや、言ってるって言っても……、俺はどっちかっていうと律の味方だからさ、律がいいんならいいけど。ちょうど俺も彼女と一緒に住む話が出てたし』 『……こんな時間に、ごめん。嬉しすぎてすぐに電話してた。また、明日って、もう今日か、もっと明るくなってもう一回電話するわ』 『……おう、おやすみ』 『じゃ』  スマホを切って、おとはを見る。 「陽一郎はいいって、自分も彼女と住むって」  その言葉に、おとはは呆れたように、はいはい、と笑った。  そして、その笑顔のまま俺を見つめて妖しい笑顔に表情を変えた。 「ねぇ、……じゃあ、もう一回する?」  その言葉に耳を疑う。  でも、俺の身体はすぐ反応する。  こいつ本当にとんでもない女。 「………それ、男のセリフじゃねぇの」  それだけ言って、彼女の唇にそっと唇を重ねた。
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