Kiss. 8

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 両手で彼女の滑らかな頬を包む。  頬の肉が手の平に沿って、温度が伝わる。唇を近づけると彼女は瞼を閉じた。唇に何回も触れるキスを繰り返す。  身長差があるから俺は屈むけど、少し背伸びする姿も見たくて唇を離すと、大きな瞳で見上げるから、その姿が愛しすぎて待ちきれなくて、また屈んでしまう。  だから中々、玄関から移動して部屋の中に入れない。  柔らかい唇の虜になって、すぐ体が反応して、ベッドに連れて行きたくなる。  好きな女の引力ってすごい。  けど、しつこいって嫌われたくないから、いちいち反応とか気にして、聞いて安心したくなる。心臓は緊張して、1回どころか、何回か抱いてるのに、また今も大丈夫かな、って思ってる。  だから、俺は童貞じゃねーつーの。  いつまでこれ思うんだろう。  おとはに一生、想い続けてたりして。 「んっ、たく、み?」  唇を離すとこうやって小さく吐息を漏らして、俺を大きな瞳で見上げて捕まえる。それで心臓がぎゅっとなって、また緊張する。  どした、もっとしたい?って瞳で問う。  彼女はすぐに俺の背中に腕を回して引き寄せた。強い力にバランスを崩しそうになるけど、そのまま俺はおとはを抱き上げた。軽いな。 「ベッド行く?どうする?飯、持って来てくれたけど……」  正直、腹は減ってない。  それよりも。  おとはは返事をせずに俺にしがみつくように肩を握った。 「おとはを先に食べたい」  食べたいって言って、いつも喰われそうになるのは俺だけど。  おとはは、妖しく笑って、俺にキスをした。  柔らかくしっとりとした唇の間から舌が俺の口に入り込む。熱い甘い舌。いちごチョコと同じ甘さで、痺れるような感覚が走ったと思ったら、舌を吸われた。俺も追いかけるけど、中々捕まえられず、痺れが広がっていく。  本当にとんでもないと思う。  こいつ、男の俺より絶対、男が気持ち良くなるポイントを分かってる。舌なんか吸われて痛いぐらいなのにとろとろにされて、唾液が混ざり合ってくちゃくちゃって淫らな音がしてる。音が口から鼻の奥、耳に抜けて、口の角度を変える時に甘い声で、息を吐くから、舌の感覚で、下半身が熱を帯びる。  キスってこんなに気持ち良かったんだって、おとはに教わった。  抱いてやるって思うのに、虜になってるのはいつも俺。  さっきまで真面目な話してたのに、家の中に入ったら唾液混じりの深いキスをしてお互いの身体を触りあって、体温を上げるような行為をしてる。  ベッドにおとはを寝かせると彼女は両手を広げて、おいで、って俺を呼んだ。俺もそれを彼女にしたい。けど、抗えず、彼女にキスの雨を降らせながら服を脱いで、彼女の服も脱がせた。鎖骨を肩から胸にかけて形を辿(たど)るようにキスをして、彼女を見ると、瞳が少し、潤んでいた。 色んな表情を見たくて、胸の横を強く吸うと小さな赤い花びらみたいな跡が残った。  肌に映えた赤が嬉しくて、うなじに唇を寄せた。短いふわふわの栗毛が鼻に触れる。 「そこは、見えるからダメ」  おとはは俺の胸を少し押した。 「だから、つけるんだよ」  耳がピンクになった。  最近気付いたけど、おとはは少しだけ意地悪な事を言われるのが好きみたい。  耳元で俺が囁くとすぐに赤くなって、怒ったり、睨んだりする。で、これを言うとさらに怒るから絶対、言わないけど。 「たく、み、ダメって」  胸を押す力は強くなった。 「仕事、明後日からだろ。見える所は首だけにするから、お願い」  何か1つでも俺の独占欲を満たしてくれと、少し邪悪な気持ちが嫌がるおとはを見ていたら、芽生える。  全部やるって言って、全部欲しがってるのを我慢してる。俺もおとはに負けるけど、劣らないぐらいは天邪鬼。  力が強いおとはは本気で嫌がってない。抱きしめると、胸を押す手の力は緩んだ。  首を強く吸うと、赤い跡が残った。  耳の裏にキスをしてうなじにも何度もキスをして、ここにも跡をつけたくなるが、さすがに嫌われたくはないから見えないところに移動する。胸、腹、背中、内腿に順番に跡を残して、組み敷いた状態で彼女を見つめると俺の跡が赤い絵具を雫の水玉を散らしたように残った。  独占欲で彼女を抱きたくはないのに、その姿を見ると気持ちは膨張する。  内腿にキスをして舌を這わして、蜜が溢れる場所に指先を伸ばす。 「……んッ」  小さな吐息と声で彼女が感じていることが分かる。  顔が見たいから、指先を蕾と蜜口に沿わせて、身体を密着させると彼女が俺の下半身に手を伸ばした。  その動きに、思わず腰を引いた。 「いや、そこ触られたら、また我慢が出来なくなるから」 「……でも、触って欲しいでしょ?」  また、鬼悪魔が俺に囁く。  いや、そうなんだけど、それを認めるとまた持たなくなってしまうんだけどな。俺が返事をしないでいると彼女は手を伸ばして俺自身に優しく触れた。 「わたしも拓未に丁寧に優しくしたい。とっても大事に抱いてくれるから」  その言葉にもう感情が暴走する。  そんなこと好きな女に言われて、嬉しくない訳ない。  右指先で潤った音を出す、蜜口を滑らかに往復して、左指先で栗色の毛先を(もてあそ)ぶ。唇を合わせて、キスを深めて、舌を追いかけて、緩慢な動きなのに全部の神経が心臓になったように、どっどっどっ、って音を刻んでいた。  右指先が彼女の蜜で濡れて、柔らかくなったのを確認して、指の動きを徐々に早めた。  おとはの感じる顔が見たい。  蕾を刺激して、胸の頂を甘噛みすると、短い吐息を吐いて、んはぁ、と顔を上気させた。 「…ん、……はぁ、ん、」  短い、喘ぎ声が耳に入る。  控え目な声をもっと聴きたい。 「…はぁ、もう、た、くみぃ、……ん、あぁ、んーー」  指先のピストン運動を早めて、蕾を回すように擦るとおとはは指を締め付けて快感に身を任せて、達した。 「おとは可愛い」  額と頬と唇に順番にキスを落として、右指先を締めるつける場所からゆっくりと抜いた。 「見て、めちゃくちゃ濡れてる」  指先をおとはに見せると、艶めく粘液が指先に絡まっていた。 「もう、そんな意地悪しないで。じゃないとわたしも……」  そう言った彼女は手で触れていた俺自身に視線を這わせて舌を出した。 「いや、それは勘弁して、俺またすぐ……」  なんとか、彼女の動きを制止しながら、唇にキスをしてゴムを着けた。  腰を持って彼女に押し入れると、俺を容赦なく締め付けた。少し動かすと滑りが良くて、息を吐きながら、ゆっくりと奥まで貫いた。 「ん、っふぁ……あぁ、ん」  声が可愛い。  喘ぎ声がうるさいって思ってた俺が見たら、まさかその声を聞きたいがために腰を動かすなんて思いもよらないだろうな。  欲望を吐き出すためじゃなくて、抱いている女の声や表情を見たいがためセックスをするだなんて考えられないと思う。 「おと、は、可愛い、もう」  もうイキそう。  俺、早漏じゃねーんだけど。  なんなら、不感症レベルの射精できない男だったのが嘘みたいだ。  おとはのふわふわの髪を撫でて、鎖骨にキスして、頬にキスして、首にキスして、唇にキスして、腰を早く、激しく、深く、彼女に打ち付ける。  手首、手の甲、指先、爪にもキスして、訳わかんなくなって、ヤバいって思って彼女を抱きしめた。 「………た、くみぃ」  おとはが名前を呼んで俺の背中に腕を回してしがみついた瞬間、心臓が弾けて溶ける。  パチパチ火花が散ったような走る快楽が締めつけて、摩擦熱で火の粉が上がる。  どろどろに溶けきった柔らかい場所で包まれたまま、俺は果てた。  心臓のどくどくどくをこめかみと首の動脈がなんとか受け止めている感覚。  息から整えようと吐いて、吐ききってから、深く吸う。  でも、中々心臓の波は収まらない。 「………っはぁ、おとは、もう、聞き飽きたかもしれないけど、愛してるよ」  彼女を抱きしめる。  ありがとう、と抑揚のある優しい声で返事が返ってきた。
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