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その後、結局おとはがどこに居るのかは分からなかった。
陽一郎と電話を切った後、俺もおとはに電話をかけたが繋がらず、聞き慣れた呼び出し音がなるだけで、聞きたい声の主が出る事はなかった。
俺は現実が受け止められずに、コートを持って家を急いで出た。五反田駅を目指し、電車に乗って、市ノ瀬駅で降りて彼女のマンションに向かった。押し慣れた503号を押すが返事がない。
舌打ちをして、今度は動物病院を目指して走った。
どんなに動揺していても冷静でも、いつも体は正直だ。
急げば急ぐほど心臓のリズムは速くなり、鼓動と共に息は苦しくなる。
俺の気持ちも一緒だった。
何でも言ってと、伝えた時、彼女は素直に頷いてくれた。
ひねくれた彼女が俺の言葉に素直に頷いてくれた事などなかった。
だから、安心していたのかもしれない。
おとはが自分から気持ちを整理すると言ってきたのは初めてだったから、待ちたい気持ちもあった。
待てば、彼女の心が少しでも自分に向くと期待したのかもしれない。
あの時の俺の判断は、正しかったのだろうか。
一週間前に会った彼女の顔を思い出す。
ーーー『拓未……、あのね、大事な話があるの……』
あの言葉を発した時点で、問い詰めて、何の話か聞けばよかったのかもしれない。そうすれば、今彼女を探して走り回っていることもなかったのかも。
そう思っても、探すしかできない。
迷路みたいなあの女に振り回され続けて、ついには姿まで消されてしまって、予想もしない泥沼。
足掻けば足掻くほどおとはに沈んでいく。
自分ではどうしようもない。
おとは意外にこの泥沼から抜け出させてくれる女が居ない。
バカみたいだと思う。本当に。
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