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◇
よくドラマや漫画、映画で朝チュン的な始まりがあるが、今の俺はそのエピソードにぴったりな朝を迎えていた。ダブルベッド。広い部屋。ラグジュアリーだけれど、ブラウンで統一されたシックさも兼ね備えた空間。
上半身は裸。相手も裸。腕枕されてる俺。両方、男。
体を起こすと隣には昨日、夜を一緒に過ごしたと思われる相手。おまけに、男。慣れない回らない寿司屋に行き、飲んだ事もない酒を飲んで、知らない部屋で目を覚ました。
左手首の時計は8時40分。
横で鼾をかいて寝ている男は起きている時ほど表情は鋭くない。
高い鼻、整った輪郭。短い黒髪。シルバーのピアスが両耳に光る。
ここ、どこだ?
「………奈良崎さん、起きてください。ここどこですか。俺の服どこですか」
体を起こし、俺を腕枕していた人物の肩を叩く。
俺より、肩の筋肉も腹の肉もあるが筋肉質で引き締まっている。思わず見比べてしまう。
「………ん、まだ、寝か……せ、ろ」
眠たそうにそう言い、寝返りを打った。
いつもの低い威圧的な声が少し掠れて、枕に頭を擦りつけて布団の中に入って行った。
「いや、服どこですか?」
俺がもう一度、彼の肩を持って揺らすと、部屋の扉をコンコンとノックされた。
返事をしようかと迷った瞬間、勢いよく扉が空いて、細身だけれど目がキリッとした顔の女が入ってきた。キツめの美人。歳は奈良崎さんと同じぐらい。30代。髪はミディアムで毛先はアイロンでカールをかけている。トーンは7ぐらい。室内では暗めの色。
手には俺のシャツを持っていた。
彼女は俺の姿を見て、奈良崎さんを見て、目を見開いた。
「……涼太、………信じられない…」
小さく呟いて、奈良崎さんの布団を剥ぎ取った。
「起きなっ、信じられない。涼太、ついに男も抱くようになったの?よりにもよってこんな綺麗な子、自分だけずるい」
「……寒い、服…………って、あ、みなみ」
「あ、みなみ、じゃないわよ。実家から帰ってきたら男の服が2着も洗濯されてるから何事かと思って来たら……」
そう言って彼女は俺に視線を写した。
ただ見られているだけではなく、何だか隅々までチェックされている気持ちになる。
彼女は存分に俺を見た後、持っていたシャツを俺に投げた。
「それ、君のでしょ?洗濯してるから」
「……あり、がとうございます」
返事をしてシャツを着ると、奈良崎さんが頭を押さえながら上半身を起こした。
「律川、日本酒飲むの初めてだったのか?酔っ払って、俺も飲んでたから、家分からなかったし、取りあえずここ連れてきたけど…、あ、服はお前がゲロを吐いて汚したから、脱がした……って頭痛っ」
「そんなにお酒飲んだの?珍しい」
みなみと呼ばれた女は、揶揄うように奈良崎さんを見た。
「…まぁ、元気付けたかったってだけだけど……、ほたるは?」
「ほたるは学校。良かったね、情けない姿見られずに済んで」
「……うるせぇよ」
奈良崎さんは頭をかいて返事をして、ベッドから起き上がった。
俺も立ち上がり、みなみさんに頭を下げる。
「あ、えーっと、名前は?」
「律川です」
「律川くん、朝ごはん食べてく?どうせ食べないような不摂生な生活してんでしょ?」
その言葉に苦笑いを浮かべる。
食べずに一旦家に帰って、風呂に入ろうと思っていた。
「シャワーも浴びていいよ。涼太の店の子でしょ?何なら、服も貸すから」
「ありがとうございます」
返事をした頭を下げると、キリッとした目が穏やかに下がって笑った。
「いいよ、なんか可愛い。若い男の子もいいね」
みなみさんが笑うと奈良崎さんが、おーい、と声を出した。
「みなみ、お前が考えてる事、分かるぞ」
「何よ?」
みなみさんは少し不服そうな声をあげた。
「「モデルしない」?」
奈良崎さんとみなみさんの声が重なった。
そして2人は同時に顔を見合わせて笑った。
「言うと思った。でも、そいつは美容師だから。服を着て写真撮られるとか性格的にもムリ。だから、ダメだ」
「そっか〜残念。せっかく、綺麗なメンズモデルがいるわって思ってたのに……」
結局、奈良崎邸でシャワーを浴びて、朝食をもらって、着替えを借りて出勤した。俺と奈良崎さんが一緒に出勤すると、なぜか高野さんはそれを見て喜んでいた。
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