Last kiss

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 ホワイトとグレーのモノトーンのサイディングの外壁にガルバニウムの屋根が乗った、北欧風のシンプルな店から出る。外に出ると、雪がちらついていた。  どうりで寒いわけだ、と思って、着ていた浅葱色(あさぎいろ)のロングコートに両手を入れた。オレンジ色のマフラーに顎と口を埋める。  マフラーを巻いているだけで体感温度が全然違う。  店から自宅に向かって足を進める。  雪が降っているから、早く家に帰りたい。  大理石調のエントランスがあるマンションを足早に通り過ぎる。1年前は何度も、何度も、ここに足を運んでいた。懐かしい思いが込み上げる。あの時の自分の必死さを今、振り返ってみると滑稽のような気もする。でも、よく頑張ったと思う。一生に一回の頑張りをあげるなら、俺はおとはに向かって必死に走って、プロポーズをした事だ。って、恥ずかしすぎてもう黒歴史だけどな。  後悔は全くしていない。  吐いた息が白くなり、一瞬で空気中に消えていった。  コケ野郎が帰って来てから1年が経った。  時間の経過はあっと言う間だ。気づけば季節が通り過ぎて、小さな出来事は忘れられて行く。不必要な記憶はいらないが、大事な記憶はいつまでも覚えておきたいってそんな事、思ってる俺なんか気持ち悪りぃ。  でも、バカみたいに本気で、真面目に、そう思っている。
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