SS plus kiss

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ーLast kiss 数十年後、律川わかば sideー  私の名前は律川わかば。小学五年生。髪の毛は栗毛でふわふわだけど、顔は陽に焼けてて、目は鋭い。猫目っていうのかな。  友達にはパパによく似てるねって言われる。  パパは「hair salon harnest」で美容師をしてる。店長兼トップスタイリストなんだって。ナラサキグループ?ってゆう系列会社、って前にパパが言ってた。よくわかんないけど。  パパは髪の毛をあっという間にチョキチョキチョキって切っちゃう。私の髪もママの髪もお兄ちゃん2人の髪もパパがみんな切ってる。  今は私の塾のお迎えに来てくれた。手を繋いで歩くパパはシュッてしてる。風を切って歩くって感じなのかな?外で見るパパは家で見るのと違って、なんか無駄がない感じ。  パパはモテる。同級生の子もその子のママもかっこいいとか、綺麗とか整ってるとか言ってる。そうかな?ずっと見てて、これがパパだからわたしはパパが特別かっこいいとかは思ったことはない。  パパは無愛想で冷たい印象であるのにも関わらず、女の人が寄ってくる。しかも、寄ってくるのはママと全然違うケバいタイプ。  今もさ、目の前に来たよ。 化粧バッチリ、髪の毛も爪も派手で子供の私が近くでパパと手を繋いでいるのに関係なく絡んでくる。  うげぇって感じ。 せめて、私がいない所でそのバサバサ睫毛でパパを見上てくれないかなぁ、なんて思う。 「律川さん、ねぇ、1回でいいんです。食事行きませんか?」 猫なで声ってこんな声を言うんだろうな。パパは苦笑いどころか、なんの感情も持ってないような無表情。 「いや、無理。俺、あんたに興味ない」 冷たく言い放ち、付け足す。 「この子、娘。パパ嫌いって言われたくないから、あっちいって」 うわ、冷た。 でも、寄ってくるのこんな女の人ばっかりだよね。パパ見た目に反してママの事大好きだから、無駄なのに。 「わかば、ごめん。変な人来たな」 「変な人じゃなくて、さっきの人一応、私の塾の先生だよ?だから名前も知ってたし、結婚してるのも知ってて話かけてきたんだと思うよ」 「え?マジで?」 「マジで」 私の返事に、パパは、めんどくさいなぁって表情を浮かべた。 「でも、まぁ、大丈夫だと思う。臨時講師だし」 「じゃあ、いいや。わかば、帰ろう」 繋いでいる手をぎゅっと握ってパパは笑った。およそ笑いそうなイメージなんて皆無なのに、パパはよく笑う。お笑い番組も好きで、よく芸人のギャグを言ってママにシラケた目で見られてる。でも、その様子は私にとってはめちゃくちゃ面白い。だって、パパ、接客業で美容師なのににこりともせず、お客さんと話してるのに、家ではママの事、大好きだよって毎日言ってる。家の中では無駄だらけ。外の顔と全然違う。 娘の私は2番目なんだって。でママは世界で1番好きらしい。 お兄ちゃん2人は子分だって。 こんな無愛想な顔してママに必死、本当に笑っちゃう。 「晩ご飯なにかなぁ?」 私がパパを見上げると、パパはそうだな、と短く返事をして、スマホを取り出した。すぐに電話を掛けている。 「あ、おとは?今日飯、何?」 電話の声が塾の先生と話したトーンと全然違う。 ママにメロメロ。娘からしたらかなり恥ずかしいけど、最近はちょっと面白い。だって、ママにちょっと鬱陶しそうにされてもそれでも幸せそうなんだもん。なんか、応援してあげたくなる。 「あ、ちょ、待って」 パパはママに電話を切られたみたい。ショボーンてしてる。 「パパ、元気出して。帰ってママに聞いたらいいよ。多分、料理してたんじゃないの?」 「うん、あとで、って言われて切られた」 私は、声を出して笑ってしまった。また、ショボーン。 「パパずっとママの事好きなの?ママのどこが1番好き? 「どこって……」 パパは一瞬だけ私に視線を移して、家路に向かう足の速度を緩めた。足元に茶色と黄色の街路樹の落ち葉が目に入る、秋の空気が漂う。 「まず可愛い。あとわかば、大知(だいち)克己(かつみ)を産んでくれただろ、で飯が美味い。居心地がいい。あと可愛い」 「で、屈折してて、めんどくさくって、素直じゃなくって、俺を睨んで、嫌いって言うところ」 「可愛い2回も言ってるし、後のは好きな所じゃないよ?」 私の指摘にパパはえ?と首を傾げた。 「え、じゃないよ」 「いや、好きな所だけど」 パパはなんでもないようにそう言って、ははって声を出して笑った。 「あと、ヨダレ垂らして寝るところ」 それ好きな所なの?パパって変。 「ヨダレ垂らして寝る所とか好きな人に見られたら恥ずかしいけどなぁ」 私のその言葉に、パパは、え?と首を傾げて、眉を寄せた。 「おい、わかば、好きな奴いるのか?」 いるけど、パパには秘密。 だって、ママの事めんどくさいって言うけど、パパが1番めんどくさいんだもん。 「好きな人、いないよ」 その返事に納得したみたいで、パパは元のシュッとした無表情の顔を浮かべて私の手を引いて、足を進めた。
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