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アナザーワールド
突然…広がった白い世界に僕は言葉にならないくらいの感動を覚えた。
今まで、見たことのない色味がかった綺麗な白色。
僕はいつまでもそこにいたいと願った。
雪化粧とはこういったことを表現するのだろうか…。
何やら楽しげな声が聞こえてくる。
小さい子供たちが、白い塊を交互に投げているのだろうか…。
雪だるま…子供たちが、変なの?何それ?といいながら愉しげに話している。一体どんな形をしているのだろう。
ゴォォォォ……!
急に轟音が頭の中に鳴り響き、僕は目を瞑ってしまった。
真っ暗だ…いや、真っ黒。何の味気もないその闇は僕を包み込み、やがて僕の心も閉ざしていく…。
ガバッ…!!
はぁはぁはぁはぁ…。
僕は跳ね起きた。
目は暗闇に満ちたままだ。
現実に戻されたとき、僕はまた恐怖に陥る。
ぼ、ぼくは…
何も見ることができない存在…。
白いであろう枕に顔をうずめ、僕は涙を流す。
僕は雪なんて見たことがない。
両親の顔も覚えていない。
幼い頃の交通事故で、僕は両親を失った。
そして、僕は両眼を失った。永遠に光を失った。
音、声、匂い、触感…視覚以外の受容できる部分でイメージした夢物語。
僕の映像は夢の中にあり、この生きている世界にはない。
僕にとって、唯一安らぎを与えてくれる場所…まやかしの色や光を分け与えてくれる…僕だけのもうひとつの世界。
僕は枕の下に手を入れ込む。
ジャララ…
多量の錠剤を口に運んでいく。
ゴクッ…
水で一気に飲み込んでいく。
そうして、僕はまた、元の世界に戻っていく…。 僕の存在意義を感じられる安定したもうひとつの世界に。
いつ戻れなくなるなるか分からないけど…。
僕が選んだコタエがそこにあると信じて…。
【完】
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