アナザーワールド

1/1
前へ
/1ページ
次へ

アナザーワールド

突然…広がった白い世界に僕は言葉にならないくらいの感動を覚えた。 今まで、見たことのない色味がかった綺麗な白色。 僕はいつまでもそこにいたいと願った。 雪化粧とはこういったことを表現するのだろうか…。 何やら楽しげな声が聞こえてくる。 小さい子供たちが、白い塊を交互に投げているのだろうか…。 雪だるま…子供たちが、変なの?何それ?といいながら愉しげに話している。一体どんな形をしているのだろう。 ゴォォォォ……! 急に轟音が頭の中に鳴り響き、僕は目を瞑ってしまった。 真っ暗だ…いや、真っ黒。何の味気もないその闇は僕を包み込み、やがて僕の心も閉ざしていく…。 ガバッ…!! はぁはぁはぁはぁ…。 僕は跳ね起きた。 目は暗闇に満ちたままだ。 現実に戻されたとき、僕はまた恐怖に陥る。 ぼ、ぼくは… 何も見ることができない存在…。 白いであろう枕に顔をうずめ、僕は涙を流す。 僕は雪なんて見たことがない。 両親の顔も覚えていない。 幼い頃の交通事故で、僕は両親を失った。 そして、僕は両眼を失った。永遠に光を失った。 音、声、匂い、触感…視覚以外の受容できる部分でイメージした夢物語。 僕の映像は夢の中にあり、この生きている世界にはない。 僕にとって、唯一安らぎを与えてくれる場所…まやかしの色や光を分け与えてくれる…僕だけのもうひとつの世界。 僕は枕の下に手を入れ込む。 ジャララ… 多量の錠剤を口に運んでいく。 ゴクッ… 水で一気に飲み込んでいく。 そうして、僕はまた、元の世界に戻っていく…。 僕の存在意義を感じられる安定したもうひとつの世界に。 いつ戻れなくなるなるか分からないけど…。 僕が選んだコタエがそこにあると信じて…。 【完】
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加