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異邦人
今日ママンが死んだ。もしかしたら一昨日だったかもしれないが、わからない。
猫みたいなあの人は、誰が来るのを待つでもなく一人で逝った。あの人らしい最期だと思った。
長弟は、目を真っ赤にしながら何か話そうとしては口を結ぶ。妹だけが、いやに饒舌に義母の死んだ日のことを滔々と語っていた。
ママン、楽になれて良かったね。
入院してからずっと、苦しそうにして、言葉も上手く出せなくて、お喋りな貴方はとてももどかしそうだったから。
妹が何故か、湯灌は私に任せたいと言った。
あの子は何を考えているのか、今となっては離れている時間が長過ぎてわからなくなった。
ただ、メイク道具は必要かだけ、訊いてLINEを閉じた。
悲しみも喪失感もない。
正に異邦人だ。
貴方が好きだった、あの物語の出だしを書いて、この物語は終わろうと思う。
私はアラブ人を殺したりしないから、安心して下さい。殺したいひとは、既にあの世で高笑いしている。
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