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女帝の長子
女帝の最初の子、クルミさんと初めて会った。
女帝にそっくりな、聡明で美しい女性。
お会いして、やっぱりか、と再確認。
私が「白痴」と罵られ続けたのは、最初の娘が一番美しく一番聡明だったからなのだ、と。
クルミさんは、私を恨んでいるだろうに、女帝の前だからか、最初で最後だからか、常に笑顔を崩さなかった。
そして、私は思う。
こんなところまで女帝にそっくりだ、と。
クルミさんが私たちと共に暮らせなかったのは、私が原因だ。
男は「自分のせいだ。申し訳なかった」と悔やんでいたが、女帝が初めてクルミさんのことを私に話した日のことを、私ははっきりと覚えている。
お姉さんに会ってみる?
何でもないことのように、あの女は言った。
『姉』がいることなど全く知らなかった私に、さも当たり前のように、『お姉さん』と、クルミさんのことを呼んだ。
私が14のときのことだった。
そのとき私の中で、全てのパーツが揃った。
何故女帝が、私を「白痴」と罵り続けたのか。
「貴方のせい」と男を責め続けていたのか。
即座に答えた。「会わない」と。
そのせいでクルミさんは、アッシャー家に入ることができなかったのは、果たして幸か不幸か。
クルミさんの父親は、女帝が好みそうな「頭が良くて美丈夫」らしい。
生死は知らない。
女帝とクルミさんだけが知っている。
今も、昔も、これからもずっと。
要するに私を含めアッシャー家の人間は、クルミさんに関しては、事実全く関わらせないという、女帝の強い意思がそこには働いているということだ。
ただひとつだけ、男が告白した。
クルミさんは、女帝に捨てられた男と再婚した女に忌み嫌われ、家を追われて親戚の家に預けられ、そこでも虐待を受けて育ってきた、と。
男がクルミさんを引取らないと言ったせいで、女帝とクルミさんには申し訳ないことをしたと、男は泣いた。
真実は何か。最早意味をなさないから、追求はしまい。
ただ、女帝に瓜二つなクルミさんと会って、私は自分が何故「白痴」だったのかを知ることができた。
事実はそれだけだ。
女帝が身罷り、やっと私の「白痴」は治るのだろう。治るようなものは「白痴」と言わないのだが、女帝が言い続けたのだから、きっと私は「白痴」だった。
今、やっと私は「健常」な知能を得たらしい。
おめでとう私。
最低だ。
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