あの日の感触

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 眼前に伸びているのは、今は廃線となってしまった故郷の線路だった。  一本に伸びる線路の奥は朝もやに飲み込まれ、視界が遮られてしまっている。両脇には青々とした草が伸びていて、僕の背丈を超すほどに生い茂っていた。  かき分けてまで左右に逸れようとは思えず、僕は線路の上をただひたすら真っ直ぐに突き進んでいく。  遠ざかっていくかのように、その朝もやは僕の体を一向に包み込んではくれない。どうしてだか分からないが、もどかしさと切なさが僕の胸を締め付けていた。  どれぐらい進んだのだろうか、疲れを感じない体はおおよその事すら知ることが出来ない。  ふと前方に、白いシャツに黒のスラックスを着た少年の後ろ姿があった。発達途上のその体つきは、シャツの袖から伸びた腕がほっそりとしていて、どこか頼りなさを思わせる。 「久しぶりだね」  声変わりしたての少し高い声が発せられ、その少年が振り返る。  十年前と変わらないその姿にまるで、彼だけがこの景色の中に取り残されてしまっているかのようだった。
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