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秀治は美奈子とスーパーに寄って、夕飯のために出来合い物をカゴに入れ、りんごを選んでそれもカゴに入れた。いちごも見てみたがりんごよりもかなり高額で、秀治はうささんのりんごに感謝した。
ネットの動画を見ながら、美奈子のリクエストのうささんのりんごを器用な手つきで作った。
「うささんだ!お母さんが作るうささんだ」
美奈子は嬉しそうにそう言うと、りんごをシャリシャリ食べ始めた。
だが、しばらくすると暗い顔になる。
「美奈子?」
気になって秀治は声を掛ける。
「お母さんとお父さんに会いたいよぉ」
ホームシックにかかったのか、美奈子はボロボロと泣き始めた。秀治は美奈子を抱きしめて頭を撫でる。
「ちょっとだけ頑張ろうな。お父さんとお母さんも寂しいけど美奈子のために病気を早く治そうとしてるさ。美奈子がインフルエンザにかかって辛い思いをしないように頑張ってるんだぞ」
優しく抱きしめられて美奈子もうんうんと頷く。
「りんご食べたら一緒に風呂入ろう」
秀治が言うと美奈子は笑顔になる。
「うん!兄ちゃん、大好き!」
泣き笑いの顔で美奈子は言う。その健気な美奈子が可愛くて仕方ない。
風呂に一緒に入り、歯を磨いてやり、トイレを済ませると秀治は美奈子をベッドに寝かせる。
持ってきたお気に入りの絵本を読んでやり、大事そうにキャラクターのぬいぐるみを抱きしめる美奈子が寝息を立て始めると、秀治もやっとホッとした。
秀治はスマホを持つとキッチンに場所を移す。
「もしもし、秀治だけど」
『ああ、秀治。どう?美奈子は』
心配そうに母親は尋ねる。
「ちょっとホームシックになったけど、今はもう寝てる。そっちはどう?」
『薬飲んだら少し楽になったわ。旦那はだいぶ元気になったから明後日には仕事に行けるみたい。多分私も明日にはもっと楽になるだろうから、土曜日には美奈子を戻してもらえると思うわ』
母親の言葉に秀治はホッとした。
美奈子のためにも早く家に帰してあげたかった。
『美奈子、離れるの初めてだからもしかしたら不安定になって夜泣きしたりおねしょするかも知れないけど』
心配そうに母親は言う。
「預かったおねしょシートをシーツの下に敷いたから大丈夫だよ。なんか不思議だよ。まさか美奈子とひとつ屋根の下で一緒に過ごすことがあると思ってもみなかったからさ」
秀治は優しい声で言う。
『あんたには、小さい頃から苦労かけて本当にごめんね。仕事、何してるか教えてくれないけど、何があっても体だけは気をつけてよ。それだけが心配だよ』
なんとなく、自分がヤクザだと言うことが母親にバレている気がした。
「ああ。分かってる。大丈夫だよ。また明日電話するよ。おやすみ」
秀治がそう言うと母親もお休みと言った。
電話を切ると秀治はため息をついた。
とりあえず、土曜日に美奈子を母親に返すまでは、何があってもしっかり面倒を見なければと思った。
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