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今朝はまだ美奈子が登園して来ないと思いながら、実子は掃き掃除をして園児達を門の前で出迎える。
「実子先生、おはようございます!」
「勝男君、おはよう」
「先生、よろしくお願いします」
「はい。お預かりします。勝男君、ママにいってらっしゃいしよう」
実子と男児は手を振って母親を見送る。
「お教室で朝の支度してね!」
「はぁい!」
実子は微笑みながら門の掃除を再開した。
「おはようございます」
低い声の若い男が実子の前に立った。
実子はその相手を見上げる。
背の高い男の顔に見覚えがあった。
園長から写真を見せられた浩二だった。写真よりも実物の方がカッコ良くて少しドキドキした。
「あ!あ、おはようございます」
びっくりして実子は深々と頭を下げた。
「……園長先生から、親に連絡がありました。突然見合いだなんてすみませんでした」
浩二はそう言って実子に謝る。
「いえ、私こそ、お断りしてしまってすみません!」
実子は浩二の顔がまともに見れなかった。
「……好きな方がいらっしゃると聞きました。残念ですが、諦めます。正直、初めて実子さんを見かけて一目惚れでした」
爽やかな笑顔で浩二は言う。実子はストレートな告白に恥ずかしくて真っ赤になった。
「あ、そのッ。突然のお話だったので、私もなんて言ったら良いか」
しどろもどろの実子を優しい眼差しで浩二は見つめる。
「では、俺はこれで。失礼します」
浩二が実子の前から立ち去ろうとしたとき、秀治が美奈子を連れて実子と浩二の前に現れた。
「実子先生おはよう!」
美奈子が実子に走り寄る。
秀治は浩二と目が合った。
「あれ?お前、秀治か?」
秀治は浩二を見て頭を下げた。
「浩二さん。お久しぶりです」
実子はふたりが顔見知りで驚いた。
「お知り合いだったんですか?」
実子が浩二に尋ねると、浩二は笑う。
「こいつ、俺のだいぶ下の後輩なんですよ。中学まで同じで」
浩二の言葉に秀治は笑う。
「この辺りに住んでたのか?気がつかなかった」
浩二が尋ねると秀治は首を振った。
「両親が今インフルエンザなもんで俺が妹を預かってんすよ。もうこっちには住んでないです」
秀治が答えると浩二は笑った。
「そっか。相変わらずやんちゃしてるのか?中学卒業して初めて見るよな?」
「そうっすね。最近はたまに妹の迎えを手伝ってるんでこの辺りをうろついてますけど」
笑いながら秀治は言う。
実子は秀治と浩二が、なぜこうも仲がいいのか不思議だった。
もしかして、思っているよりも秀治は自分と年が近いのかと思った。
「随分、仲がいいんですね」
実子が言うと浩二は笑う。
「こいつ、7歳下なんですけど、共通の知り合いなんかも多くいてよくつるんでいたんで」
浩二の7歳下と聞いて実子はショックを受けた。確か浩二は実子と同い年だと聞いていたからだった。
やっぱり秀治は見たまま若かったと知った。
しかも自分よりも7歳下。
年齢が分かって実子は思った。
ドキドキしたのは、秀治の見た目からつい、アイドルを見ている気分だったんだと気がついた。
「それじゃ、俺はここで」
秀治が先に立ち去ろうとすると浩二が声を掛ける。
「そのうち飲もうぜ。って、まだ未成年だったか。まあ、飯ぐらい一緒にできるだろ?連絡先教えろよ」
秀治と浩二は連絡先を交換した。
「お前、まだマジやんちゃしてるのか?」
ボソリと浩二が尋ねると秀治は笑う。流石、昔取った杵柄。匂いを嗅ぎ取ったかと思った。
「どっぷりです。じゃあ」
小声で言うと秀治は立ち去った。
浩二を見て秀治は5年前を思い出した。
浩二との出会いは、秀治が中学1年の時だった。
浩二も昔はやんちゃな時代があった。その当時、暴走族つながりで秀治と浩二は仲良くなった。
知り合った当時、浩二はもう暴走族は辞めていたが、秀治が中学を卒業して地元にいる間は、秀治をとても可愛がっていたのだった。
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