Act.2《これが、初恋なんだね。》

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実子は日曜日に偶然秀治と会えたことがなんとなく嬉しくて、今日も美奈子のお迎えが秀治だったら良いのにと思いながら保育園の門の掃除をしていた。 「実子さん、おはようございます」 浩二はすっかり顔馴染みになり実子に朝の挨拶をする。 「高尾さん、おはようございます」 実子はペコリと頭を下げた。 「あの、俺、どうしても実子さんと仲良くなりたいって思って。好きな人がいるのはわかってるけど、諦められないって言うか」 照れながら浩二は言う。実子はドキドキしながら浩二を見つめた。 「あのッ」 実子は困惑する。 「すみません、今夜、食事に付き合ってください!」 突然大きな声で浩二は言うと実子に頭を下げた。 登園して来た園児達がそれを見て驚く。園児達の母親はニヤニヤして見ている。 実子は真っ赤になって浩二を見つめた。 「あのッ!こ、こんな所で、そのッ!」 実子は焦ってどうして良いかパニクる。 「今夜、19時に駅の改札で待ってます。来てくれるまで待ってますから!」 浩二は強引にそう言うと、さっさと実子の前から立ち去ってしまった。 実子はギャラリーの目が気になって、真っ赤になったまま俯いてしまった。 「…………もうッ!」 実子はそう呟くが、今夜浩二と会うことにした。 ちゃんと自分の口で断ろうと思ったからだった。 秀治は宮田の所でリボルバーの練習を終え鍛練場の掃除をしていた。 「お疲れ」 宮田が秀治に声をかける。  「お疲れ様です」 宮田は煙草を咥えた。 「先日見た、極日連合の川勝覚えてるか?奴の実家が解体屋なんだが、あの野郎、またこっちの邪魔始めてるらしいわ。伊丹会長の所のシマと知らずに倉庫の取り壊しを勝手に始めたそうだ」 「いつの話です?」 びっくりして秀治は尋ねる。 「今さっきだ。土地の大家を丸め込んで、建物壊して横取りするつもりだろう」 まるでバブルの時代の地上げ屋行為だと宮田は言う。バブルを知らない秀治はその例えが分からないが、不法行為を川勝が行っていることは理解できる。 「その土地はどこですか?」 「新宿の河成町だ。倉庫は高尾不動産って所が管理してる」 自分の地元の話だと知り、しかも浩二の不動産屋と知り秀治は嫌な予感しかない。 秀治のスマホが鳴り慌てて電話に出る。相手は雅楽だった。 『会長からの指示だ。今から新宿に行く。お前も直ぐ向かえ。場所は』 「河成町ですよね?ちょうど宮田さんから聞いてました」 『話が早ぇな。じゃあな』 電話を切ると秀治は急いで新宿に向かった。 秀治が現場に着くと、重機で取り壊されている倉庫の周りは人だかりができていた。警察も来ていたが、誰も手出しが出来なかった。 取り壊している責任者は、大家からの依頼だと一点張りだった。 気の弱そうなスーツを着た男が掛け合っていたが、その責任者は聞く耳を持たない。その気の弱そうな男が浩二の兄貴だと秀治は分かった。 ベンツが到着して、雅楽が車から降りて来た。 「おーお、派手にやってくれちゃってんじゃないの」 雅楽が声を張り上げると、その責任者は雅楽を睨む。 「お前のトコのバカ社長に言っとけ。舐めた真似してるとただじゃ済まねぇよ。とりあえず今日は大人しく帰んな」 雅楽の迫力の方が上回っていたのか責任者は腰が引けた。慌てて連絡を取る。恐らく川勝へだと秀治も分かった。 雅楽は人差し指で秀治を呼ぶ。 「お前、地元だろ?川勝と高尾不動産のイザコザを知ってっか?ここに来る前に会長から聞いたんだが、川勝と高尾不動産の次男てのが、昔、やり合ってたらしい」 自分がこの場に呼ばれたのはそのせいかと秀治は理解した。 「高尾不動産の次男というのは、俺の昔の先輩です」 やっぱり知ってたかという顔を雅楽はする。 「高尾不動産は会長とも長い付き合いだと言う話だ。会長も今回の件はきっちり落とし前つけるつもりだ。その余波がその次男に行くかも知れねぇ。お前、しばらく次男を守れ」 急な展開に秀治は驚く。 「この任務が無事終わったら、俺はお前を一人前だって認めてやるよ」 雅楽はニヤリと笑うと車に乗り込んだ。
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