Act.2《これが、初恋なんだね。》

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話が妙な展開になり秀治は困惑したが、雅楽からの命令でもあるので高尾不動産の様子を秀治は見ていた。 18時30分過ぎに浩二が不動産屋から出てきた。 帰るのかと思いながら、秀治は気づかれないように浩二の跡をつけた。 浩二は足早に駅へ向かい、改札の近くに立つとスマホを弄り始めた。 距離を置いて秀治は見守る。 付近に特にやばそうな人物は見えなかったが、高尾不動産のバックに誠竜会が付いていることを極日連合に知れたことで、雅楽が言うように、浩二に対して因縁を持つ川勝が何を仕掛けて来てもおかしくはなかった。 19時を過ぎた頃、実子が駅にやって来て秀治は見つめた。 実子が浩二のそばに近づき、待ち合わせをしていたことに驚く。 確かに昨日自分が助言したとは言え、こんな時にと秀治は思った。 照れながらふたりは話をしている。さっさと場所を移せと秀治は思った。 そして楽しそうな顔の実子を見ていると、何故かムカムカして面白くない。 「来てくれてホッとしてます」 浩二は照れながら実子に言う。 「いえ。私もちゃんとお断りしてなかったから、ずっと失礼な態度ですみませんでした」 恐縮して実子は言う。 「…………見合いの件はもう良いんです。今夜、食事だけでもダメですか?」 断る為に来たのかと思い、残念そうに浩二は言う。 「私、気になる人がいるんです。その人が好きか分からないんですけど、それに私」 つい、恋人いない歴、25年と言いそうになって実子は口を閉じた。 「分かりました。でも友達として今夜は食事付き合ってください。正直もう腹減って我慢できなくて」 浩二がそう言って笑うと実子も笑う。 「はい。じゃあ、一緒に夕飯食べましょう」 実子も笑顔で浩二の提案を受け入れた。 改札を入ってふたりは電車で移動することになったようで、慌てて秀治も気づかれないように動き始めた。 恐らく新宿駅に向かったんだと秀治は思い、そのままふたりを尾行することにした。 想像通りふたりは新宿駅で降りると、人混みを避けながら雰囲気の良いイタリアンレストランに入って行った。 秀治は店の近くで張ることにした。 今日の今日で何か事が動く保証はなかったが、引き受けたからには秀治も後には引けない。 ただ、実子も一緒なのは計算外なので、秀治は何事もなく今夜は終わって欲しいと思った。 店内では、浩二と実子が料理を選んでいた。 浩二も今日、川勝の解体屋と自分の不動産屋が揉めたことは兄から聞いている。 だが、今夜実子との食事だけはキャンセルしたくなかった。 「…………実子さんが気になる人ってどんな人ですか?」 浩二の質問に実子はドキリとした。 まさか秀治だとは言えない。 「あ、その、とても、素敵な人です。好き、って言うか、憧れというか、でも、気になるんです」 言葉を濁しながら実子は答える。 「そうなんだ。妬けるな」 浩二の悔しそう笑顔を見ながら実子はドキドキする。 「私、なんかの、どこが良かったんですか?」 実子はつい聞いてしまった。 浩二のように、女性に対して優しく物腰も柔らかで、それでいて顔もなかなかのイケメン。自分が興味を持ってもらえるのが信じられなかった。 「優しそうな感じで、笑顔が可愛くて、見ているだけで落ち着けた所です。もっと実子さんを知りたくなった。きっかけが欲しくて見合いを持ちかけました」 実子は聞いたくせに恥ずかしくなった。 「そんな、私なんて全然です。恥ずかしがり屋だし、男性に対してこんなだし。きっと知れば知るほどつまらない女だと分かりますよ」 耳まで赤くして実子が言うので、浩二は実子が男に免疫がない事が直ぐに分かった。 「初々しい人、好きです。俺は実子さんのそう言うところも良いなって思いますよ」 優しい言葉に実子は真っ赤になって浩二を見つめる。 浩二の言葉に嘘がないと直感的に実子は思った。 「…………私、恋愛経験も片思いばかりで。25になっても一度も恋人がいたこともなくて。恋愛に対して臆病になってるんです」 つい、自分が男を知らないことまで実子は告白してしまった。 「良いんじゃないんですか?自分を持ってるから、適当に恋愛をしてこなかったんだと思うけど」 あくまでも優しい浩二に実子の気持ちは解れていった。 浩二の言葉は実子に安心感を与えてくれる。 こんな気持ちになれるなんて、恥ずかしいのに嬉しかった。 「頭だけで恋愛してるんです。憧れっていうか、理想ばかりで」 そう言いながら秀治が浮かんだ。 秀治の事を何も知らないのに、秀治は実子の理想の王子様になっていた。 「でもそんな実子さんに俺は惹かれた。少し時間、貰えませんか?もし、俺と友達として付き合って、いつか俺を好きになるまで一緒にいてくれませんか?」 浩二の言葉に実子は驚く。 どうしてそんなに自分を気に入ってくれたのか、今の実子には理解できない。 「今、実子さんが気になってる奴に、俺、勝てそうな気がしてるんです。なんてね」 浩二の笑顔に実子はドキドキが止まらない。 こんな風に、誰かに好意を寄せられるのは初めてだと思った。 「…………はい。恋愛ってよく分からないけど、お友達からよろしくです」 ペコリと実子は頭を下げた。 不思議だったが、目の前の誠実な浩二を見ていると、何故か素直に自分の気持ちを言葉にできる気がした。
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