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「良いですか?横山町のスタバの近くです。日章ビルって所です」
淡々と秀治は言う。
「待ってますから」
電話を切ると秀治は実子を見る。
少し怯える目の実子を秀治はジッと見つめた。
さっきの男に銃口を当てた自分が、冷静じゃなかった事に自分を許せなかった。
実子が襲われ怯える姿を見て頭に血が上り、気がつけば人目も気にせず男の後頭部に拳銃を当ててしまっていた。
万が一実子が傷つけられていたら、引き金すら引いてしまっていたかもしれないと思った。
「俺がヤクザだって事、お袋達には秘密にして欲しい。何も知らないんだよ、あの人達。迷惑をかけたくないんでね」
秀治は静かな口調で話しながら実子に微笑む。実子はドキドキしながら秀治を見つめる。
「た、助けて、くれて、ありがとう」
実子はそれだけ言うとメソメソと泣き始めた。
びっくりしてやっと落ち着いたら、今度は涙が溢れて止まらなくなった。
秀治は実子に近づく。
つい、抱きしめたくなる。
秀治は気持ちを押さえて手を伸ばし、実子の頭をポンポンとした。
「…………浩二さんが迎えに来るから。俺が言っても信じねぇかも知れないけど、浩二さん、本当に良い人だぜ。見合い断ったらしいけど、もう一度考え直してみてよ」
今のふたりの関係を、何も知らない風を装って秀治は言う。
そう言いながら、本当はなぜこんな事を言うのかと後悔した。
心がズキズキとする。
「…………大丈夫です。私たち、今、仲良くさせてもらってます。この先どうなるか分からないけど」
実子はそう言うと言葉を止めた。
その言葉を聞いて、秀治は微笑んだ。
もう、仕方ないと悟った。
自分の気持ちに、気付くのが遅かったと。
「安心してください。ご両親にも美奈子ちゃんにも、秀治さんの仕事のこと話しませんから」
にっこり笑って実子は言う。
秀治も穏やかな顔で実子を見つめて笑った。
これ以上、言う言葉が何も見つからなかった。
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