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更須守虎はかく闘いき
東京・日本橋は蛎殻町に鎮座する水天宮の門前に、古くからある老舗のだんご屋「ししや」。
「――いらっしゃいませ~! はい、みたらしとあんこ10本づつね」
今日も今日とて大盛況の名物ごんご屋に溌剌とした声を響かせ、ししやの看板娘・更須波斯花はかいがいしく働いている。
三角巾と割烹着がよく似合う黒髪の和風美人であり、江戸っ子気質で明るい性格の彼女もまた、この店の人気を支えている一つの要因といえよう。
しかし、そんな波斯花も応対しきれない客がたまにはいる……。
「なんだ、この甘ったりいだんごは!? 酒の肴になりゃしねえじゃねえか!」
「もっと塩っ辛いあんこを使えってんだ! みたらしも砂糖じゃなく塩を入れろ!」
突然、店内でだんごを食べていた二人連れの中年男性客が、大声でクレームをつけてきたのである。
しかも、言ってることがもう滅茶苦茶だ。二人とも真っ赤な顔で酒の匂いをぷんぷんさせており、店に来る前からそうとうにできあがっていたらしい。
「お客さん、だんごが甘いのは当然だよ? それに塩分の取りすぎはよくないよ? だいぶお酒が入ってるようだし、お代はいいから今日は早いとこ家に帰って休みなよ」
さすがは看板娘。そんな酔っ払いにも話を合わせてうまい返しをすると、丁重にお引き取り願うよう促す。
「なんだその態度は! だんご屋が生意気だぞ!」
「おう、よく見りゃ姉ちゃん、カワイ子ちゃんじゃねえか。俺達にお酌してくれよ」
だが、悪酔いした彼らはまったく聞き耳を持たないどころか、彼女の手を握りしめて酌まで強要しようとする。それも、店のメニューにお酒はないのでサービスで出してるお茶の茶碗を手にしてである。
「や、やめてくださいな。うちはそういうお店じゃないんで他所行っておくれよ」
「んな、つれねえこと言わずにちょっとつきあえよ~ウェヘヘヘ…」
「なんなら、一緒に他所行ってもっと楽しいことしてもいいんだぜ、へへへ…」
眉間に皺を寄せて嫌がる波斯花だが、酔っ払い達はますます強引にその手を引っ張って放そうとしない。
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