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「バカ! なに店の中で暴れてんの! 久しぶりに帰って来たと思ったらもうこの始末!?」
だが、助けた礼を言われるかと思いきや、波斯花は眉根に皺を寄せて彼を怒鳴りつける。
「なにが〝礼はいらねえよ〟だ。このフウテン野郎!」
「そうだよ。あんたに言うのは礼じゃなくて文句だよ!」
また、なぜか目を吊り上げた店主夫婦もそれに加勢して青年に声を荒げる。
「な、なんだよ、波斯花もおいちゃんもおばちゃんもみんなして……そこは〝おかえり~〟とか〝よく帰ってきたね~〟だろう?」
皆にぴしゃりと叱りつけれた青年は、バツの悪そうな顔をしながらも冗談めかしてそんな軽口で返した。
そう。今のやりとりからもわかる通り、この青年、ただの通りすがりでもなければ店の客でもない、じつは波斯花の兄で今は亡き先代店主の息子、更須守虎なのだ。
しかし、テキヤになって家を飛び出してしまったため、今は彼の叔父叔母夫妻と妹の波斯花が店を切り盛りしているというわけである。
「ハァ……ずっと連絡もなかったのに突然帰ってくるなんて、いったいどういう風の吹き回し?」
「い、いやあなに、風の便りにちょいと気になる噂を聞いたもんでな……」
呆れ果て、大きな溜息を吐きながら尋ねる妹に、その青年――守虎は頭を掻き描きそう答える。
「気になる噂? 何それ?」
「ん、まあな……それより、さっきみてえな酔っ払いはよく来るのかい?」
その意味ありげな言葉に怪訝な顔で波斯花は聞き返すが、守虎は曖昧に返事をぼかすと逆に質問を口にする。
「え? ……ああ、最近はね。うちだけじゃなく、この界隈じゃよく見かけるようになったかも。しかも、さっきみたいに悪酔いしてる人ばっか。怒り上戸が多いのかしらね」
「やっぱり噂の通りか……そんじゃ、何かその理由なんて知っちゃいねえか?」
波斯花の答えにまた意味深長なことを口にすると、守虎はさりげなさを装いつつ重ねて妹に尋ねた。
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