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「店に来た酔っ払いと一緒だな……」
そうした乱痴気騒ぎを繰り広げる客達を横目に、守虎は店の奥にある廊下へと出て行くが、彼の向かった先はトイレではなかった。
見つからぬよう辺りを警戒しながら、トイレではなく「STAFF ONLY」と書かれたドアを開けてバックヤードへと入っていってしまう。
「調べるとすりゃあ、やっぱり貯蔵庫か……おっと、いけねえ!」
スタッフが通る時は物影に身を潜め、細心の注意を払いながらさらに歩を進めると、見知らぬ場所ながらも見当をつけ、彼は貯蔵庫と思しき場所へ到達することができた。
「――ガハハハ、計画は順調のようだな。我が魔力を注入したこの〝合酒〟の味に人間どもはすっかり虜だ」
「はい。この酒を飲んだ人間達は怒りと欲望に取り憑かれ、自ずから悪行を犯すようになります。偉大なる〝アフリマン〟と我ら〝悪〟の勝利は近いでしょう」
すると、そんな野太い高笑いと、それに応答するダンディーな男の声が貯蔵庫の中から聞こえてくる。
その声に、守虎はドアに貼りついて覗き窓から中の様子を覗う……と、薄暗いその部屋を埋め尽くす、たくさんの酒樽の前に立っていたのはとんでもないものだった。
野太い声を発していたのは全身毛むくじゃらの巨体をしたバケモノであり、もう一人は両肩から黒い大蛇を生やしたバーテンダー風の魔物である。
「あの毛むくじゃらはアエーシュマ! 蛇人間の方はアジ・ダハーカだな。思った通り〝ダエーワ〟の仕業だったか……」
その怪物達に目を見開くと、思わず守虎は声を漏らしてしまう。だが、彼が目を見張ったのは怪物に驚いたからではない。守虎はその正体が〝ダエーワ〟の一味であることを知っているのだ。
〝ダエーワ〟とは、すべての悪徳を司る神〝アフリマン〟を崇める悪の秘密結社である。
悪神アフリマンを有利にし、太古の昔から続く善神オフルマズドとの世界の在り方をかけた抗争に勝利するため、デーワは人間を悪の道に陥れ、善なる宇宙の秩序〝天則〟ではなく、破壊的な理〝不義〟を選択させようと暗躍しているのだ。
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