しめた感傷

6/10
18人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
 しかし、付き合った当初から、二人の間には喧嘩が多かったかもしれない。夏海の愛嬌のある笑顔の裏には、短気という性格が隠れているなんて、付き合うまで見抜く事ができなかったのだ。  友人には、『刑事のくせに』と、冗談半分に言われた。それは返す言葉が見当たらなかった。  だけど、今回の喧嘩は別物だと理解はしている。夏海に対して、疎かになっているのは事実だと。  だからこそ、奮発してプレゼントを送ることに決めた。誰もが知っている高級ブランドのトートバッグ。前に夏海が欲しいと言っていた一級品だ。    プレゼントしたのは、クリスマスが過ぎた12月26日の朝。遅れている事を承知で、夏海の元に坂下は連絡も入れずに押しかけた。  サプライズ。これなら、さらに効果があるかもしれない。どうせなら、そういった効力を存分に利用しようと思った。  喜んでくれるかな。それでも、小さな不安な気持ちを拭えなかった。そんな不安を抱えてマンションに向かい、エントランスで部屋番号を押した。  しばらくすると、驚いた夏海の声が、スピーカーから聞こえた。 「どうしたの?」 「渡したいものがあるんだ。開けてくれないかな?」 「いいけど、仕事じゃないの?」 「さっき終わったところだ」  夏海もさすがに冷静になっていたのか、仕事の事を気にしてくれた。いつもこうなら助かるのだが、熱くなると抑える事ができないのは、彼女の特徴だ。  紙袋が大きいので、明らかに夏海に悟られているのはわかってはいたが、部屋の中に入れてもらい、リビングのソファーに着いた時、坂下は夏海にプレゼントを手渡した。 「この間は悪かった。よかったら受け取ってくれないか?」  「うん」  夏海は戸惑いながら頷いて、手を伸ばした。紙袋から品を取り出し、恐る恐る包装紙を開けた。そして、箱が見えた瞬間、彼女の目は、明らかに変わっていた。 「嘘でしょ? いいの?」 「まだ開けてないじゃないか」  坂下は笑いながら言った。 「でもさ」 「いいから、開けてみてよ」  そう促すと、夏海は箱を開けた。すると、彼女は歓声といわんばかりの声を上げた。 「やっぱり。本当にいいの? すごく高かったんじゃない?」  カードで12回払い。そんな事は言えるはずがない。 「そんな事どうだっていいじゃないか。夏海が前に欲しいって言ってただろ?」 「そうだけど」 「遅れて悪かった。反省してる」 「ううん。私こそ、ごめんなさい」  彼女がそう言った時、坂下は夏海を抱き寄せた。唇を交わしたあと、ぶつかった瞳は潤んでいた。  そんな目を見ると、自然と強く抱きしめていた。そこからは、流れに身を預けただけだ。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!