しめた感傷

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 片岡は、友岡宅の風呂場の窓を破り侵入した。邸宅が警備サービスに加入していないのは、事前に確認済みだった。友岡夫妻が家を長期に渡って空けることも同様だ。    片岡は、風呂場からまっすぐと寝室のクローゼットに向かい、その奥から目当ての物を奪うと、すぐにその場から逃げていた。家の中は荒れた形跡がなく、指紋も拭き取られていた。足跡も少なかった。  片岡は、明らかに友岡宅の家の中を、把握しているように思えた。しかし、その事実を康雄に告げると、彼は首を振って否定した。 「あんな人、知りませんよ。見た事もありませんね」  それには、妻の富美恵も同じ証言だった。だったら、どうしてそんな事が起こるのか。それが聴取を行った刑事の、引っかかった疑問だった。  それを見透かしたように、康雄が付け加えるように言った。 「お世辞にも、良い家ではないですからね。金目のものがある場所なんて知れてますよ」  それが彼の意見だった。  しかし、それだけでは、片岡が友岡宅を狙った理由がすっきりしない。 「ただ、留守だったから」  その一点張りなのだ。  片岡がここに呼ばれたのは、事件当日に現場付近にある有料駐車場の防犯カメラに映っていた事がきっかけだった。  午前2時。手に何も持っていない片岡がはっきりと映像に残っていた。しかし、その10分後には、大きなボストンバッグを抱えて歩いている姿がはっきりと映っていたのだ。しかも、そのバッグは被害者が盗まれたものと全く同じものである。こちらにとっては、明らかに引っかかる点だ。それが片岡に白羽の矢が立った理由だった。  逮捕当日は、令状ともに片岡の自宅に出向き、同伴を求めた。そこから警察署にて、事情聴取を行った。
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