しめた感傷

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 三週間程前。   刑事にはクリスマスは関係ない。そんな事は、六年もやっていれば、さすがに分かっている。しかし、やはり心の中には寂しいものが湧き上がっていた。  外周りをしていれば自然とカップルが目に入るし、街のイルミネーションは、そんな雰囲気を存分に醸し出す。それにーー。  あいつ、やっぱ怒ってるかな?  坂下の脳裏には、数日前の出来事が浮かんでいた。 「もう、また? これで何年連続なのよ」  夏海は憎悪がたっぷりと込もった顔で、坂下を睨みつけた。それにはもちろん、反論した。 「仕方ないだろ。だってーー」  言い返そうとすると、すぐに夏海は遮ってきた。 「仕事だから! って言いたいんでしょ? わかってるわよ。しつこいな。でもさ、刑事といえども、何年も同じ日に仕事が重なるわけ? それって不公平じゃない?」 「他の職業とは違うって、わかってるだろ?」 「もちろん。どうせ刑事は特別って言いたいんでしょ? それも聞き飽きた。そうね。刑事は特別だもんね」  皮肉たっぷりのその一言を言い放ち、夏海はさらに鋭い目を向けてきた。さすがに坂下も黙っていられない。 「なんだよ。その言い方は?」  仕事に誇りを持っている坂下は、納得ができなかった。 「何よ? 文句あるわけ?」 「あるさ。市民のために身を粉にしている俺達が、他の連中と同じだとは言われたくないね」 「一人の女を大切にできない人が、市民を大切にできるのかしら」 「お前、いい加減にしろよ」  坂下はそう言って夏海に詰め寄った。しかし、夏海はそんな坂下を押し返してきた。 「出てって」  その捨て台詞と共に、夏海に自宅から押し出された。部屋の鍵が閉まる音は、感情を表すように乱雑だった。  車に乗り込んでも腹の虫が治らなかった。しかし、しばらく車を走らせていると、熱が冷めていった。  確かに悪い事をしているな。そんな感情が、ふと浮かんだのだ。  坂下が中山夏海と付き合い始めたのは、五年前の秋だった。  その年の夏に、先輩の誘いで、食事会という名の合コンが開かれた事がきっかけだった。  そんな食事の席で、坂下は夏海に惚れた。要するに一目惚れだった。夏海は愛嬌の良い笑顔を振りまいていた。そこに引き込まれたのだ。  坂下は、そこから夏海にアピールを繰り返した。何度も食事に誘い、時間の隙を使って、連絡を入れた。それが実を結んだのだ。
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