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夏海がバッグを売りに来たのは、その翌日の27日だった。
あの時はあんなに喜んでくれたのに。仲直りもしたというのに。本音は違ったというのか? 坂下には、そんな自問自答がさらに続いていた。
確かに正月に会った時は、そのバッグを持っていなかった。
「もったいなくて、使うのが怖いよ」
夏海は笑みを見せて、そんな事を言っていた気がする。
正直に理由を言って、吉田に許可を取ろうか。しかし、それも振り払った。仮に、吉田は良いと言ったにしても、店の人間にはなんて言えばいい? いくら警察とはいえ、個人の情報を簡単に扱うわけにはいかない。後で上に連絡を入れられたりすれば、立場が悪くなるのは目に見えていた。
これは、夏海に直接聞いてみるしかない。そう思った。
その翌朝。そのまま夜勤を終えた坂下は、重い頭を抱えたまま、家に帰らずに、直接夏海の自宅に向かった。
この時間なら、まだ家にいるはずだった。仕事には8時に出かける事は知っている。
エントランスのインターホンを押す時、緊張感が走った。ガサ入れに入る時に背負う、あの感覚に近かった。これをまさか夏海の家で感じるとは、今まで想像すらしなかったことだ。
部屋番号を押して、声が聞こえるまで、緊張感が続いた。応答してほしい反面、事実を聞かされたくない想いが、交差し続けていた。
少し長いコールの後、夏海の声が聞こえた。
「どうしたの?」
「いや、少し話があってな。時間あるかな?」
「あるけど」
明らかに夏海は動揺していた。しかし、それはプレゼントの事が関係していると決まったわけではない。まずは、本人を見てからだ。坂下は、そう自分に言い聞かせた。
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