しめた感傷

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 二日後の一月十七日。  事件に進展があった。片岡が、個人的に何者かにバッグを売った可能性が出てきたのだ。仲間が足で見つけた新たな情報だった。  そして、鑑識がスマートフォンの解析を始めたその三日後。   警察署には、友岡富美恵の姿があった。富美恵は真っ直ぐと捜査員の顔を見ながら、躊躇いもなく話し続けた。 「あの人を困らせたかったんです」  富美恵は、はっきりと言った。 「あの人?」  こちらの問いかけに大きく頷き、彼女は語り出した。  富美恵は過去に、片岡と恋仲の関係を持っていた。夫の康雄とは、別の恋人として。  関係が切れたのは、男の影を近所の人間から康雄に告げ口されたからだ。  富美恵は、仕方なく片岡に別れを告げた。はっきりと片岡の存在を知られない方が、彼のためだと思ったし、離婚をしてまで、今の関係は続けられないという判断からだ。  しかし、片岡はまだ未練がたっぷりと残っていたようだ。  納得がいかない片岡は、富美恵を脅迫した。 「寄りを戻さないと、夫に自分達の過去をバラすなんて言い出す始末ですから。だからーー」   つまり富美恵は、代案として金銭や金目の物で解決をしようと提案を持ちかけたのだ。その結果がこれだった。  片岡は、人が変わったようにその案に喜んで、乗ってきたらしい。 「いくつか、時計や財布をあげたんです。どうせ、あの人は使っていない物でしたし、それにバレないと思ったので。あと、いくらかお小遣いもあげたんですよ。でも、それでも足りないみたいで」  味を占めた片岡は、さらに金品の要求を富美恵に催促した。しかし、次第に物が無くなっていくのは当然の結果だ。そこで富美恵は、数日間家を空ける事を何気なく話して、片岡を誘き寄せたのだ。片岡なら、そんな事をしでかすだろうと踏んだらしい。そして、案の定片岡は、犯行に及んだ。 「でも、そんな事ではこちらが証拠を掴めるかどうかは、分からなかったかもしれませんよ。今回はたまたま防犯カメラに映像が映っていたからよかったけれど」  そんな捜査員の問いかけに、富美恵は言った。 「そんな時は、片岡の私物が家にあったと、後から警察に知らせるつもりでした。あの人の物が家にあったら明らかにおかしいでしょ?」  それは富美恵の言い分が後もっとだ。    だが、不思議な事が一つあった。片岡が盗んだはずのブランドバッグは今、富美恵の元にあったのだ。 「私は片岡に言いました。あなたから貰ったそのプレゼントだけは返してほしい。それは私にとっての一番の宝物だからと」  その訳を捜査員は尋ねた。 「思い出です。男の人からサプライズでプレゼントされた事が、今まで一度もなかったものですから。夫からは、そんな事を一度もしてもらった事がありませんしね。まあ、今となっては片岡本人のお金で買ってくれた物だったのか、疑問が残るところですけど」  富美恵はそう言った後、目元を拭った。 「だったら、旦那さんの時計はどうして渡したんですか?」  こちらの問いかけに、彼女ははっきりと答えた。 「あの人の事なんて、もうどうでも良いんです。どうせあの時計は、違う女との思い出が詰まっている物でしょうし。あの人、浮気してるから」  その話を聞いた時、坂下は言葉を詰まらせてしまった。
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