皇帝断罪

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 皇帝を捕らえたという功績をたたえられ、彼はさらに上へとのぼりつめていきました。そうです。宰相になったのです。私も彼と同じくらい功績を残していましたから、同時に宰相になることができました。これは本当に幸運の限りです。宰相の椅子はこの帝国に5つしかありません。その取り合うべき椅子に、ふたり同時に座ることができたのですから、これは本当に、奇跡としかいいようがありません。すべては、神のお導きです。  宰相は、この帝国を管理している重要な役割を担っています。宰相がこの帝国の行く末を考え、そして、色々な策を講じているのです。そしてその頂点に君臨するのが皇帝です。  そして、このとき、我らが皇帝に死期が迫っておりました。彼はそれをたくみに利用したのです。彼はこのときに、すでに帝国に対し、反旗を翻すことを考えていたようなのです。しかし、誰もそれを見抜くことができませんでした。それは、私も同じです。もしもあの時、私たちの誰かが彼の思惑に気がつくことができていたならば、彼はこんな罪を犯さずにすんだのですから。ええ、しかし、お話を続けましょう。これは語らねばならぬことです。この話を直接みなに聞いてもらうことにより、私の罪も少しは許されるでしょうから。  彼はたくみに皇帝に歩み寄りました。そして、皇帝が死んだ暁には、自分を時期皇帝に推薦するよう、皇帝に話をつけていました。どのようにして彼がそのような話をつけたのかはわかっていません。けれど、皇帝は死の間際、後継者として彼の名前を挙げ、そして、死んでいきました。  わが国の皇帝は、国民の意思でもって決定されます。死んでいった前皇帝は、本当に人望の厚い人物で、国民からも非常に愛されておりました。国民は最初、次期皇帝を誰にするのか、非常に迷っていたようですが、しかし、皇帝が死の間際、彼の名前を挙げたとわかったとたん、彼を皇帝に推挙しました。今思えば、この情報すら彼の流したうそだったのかもしれません。本当は、彼は皇帝に歩み寄ったりなどしていなかったのかも知れません。しかし、彼のことばを多くの国民が信じました。そして、私も信じました。それほどに、彼もまた国民から厚い信頼を寄せられていたのです。  皇帝が彼の名を挙げたのなら、彼こそが皇帝にふさわしい。そして、決着はあっさりとつきました。ほぼすべての国民が、彼を皇帝に推挙しました。そして、彼は皇帝の地位につきました。  そして、彼は計画を実行に移しました。神殿を破壊しようとしたのです。  その計画は緻密に作り上げられており、誰も、彼の行動に気がつくことはありませんでした。監視部隊の目についたときに初めて、彼の計画が広く知れ渡るようになりました。そして、そのときには、すでに、帝国は大混乱に陥っていました。そしてすぐに討伐部隊が編成されました。ほかの時間にも連絡を取り、全勢力をもってして、彼の捕獲を進めました。  彼は長い逃亡のすえ、過去から来た討伐員により捕獲されました。そして、この牢の中に今も捕らえられています。  そう、さきほど、ヘレナという罪人の話をしましたね。あれは彼の結婚相手でした。彼女は彼が捕らえられたことに腹を立て、事件を起こしたと、そういっていました。  彼が事件を起こしたあのとき、私は驚きを隠すことができず、どうしたらいいのかわかりませんでした。けれど、唯ひとつだけいえることは、この帝国内で罪を犯せば、必ず捕まり、この牢獄に捕らえられてしまうということです。彼はみなさんを正しい道へ導く、指導者なのです。  私は、彼の捕獲を嘆きました。彼がそんなことをする人間とは、とても信じられませんでした。何度も何度も、それは事実なのかと、みなを問い詰めました。それが事実とわかったときから、私の瞳は乾くことを知りません。今も、彼のことを思い、涙を流し続けています。  私はその事件の後、この時間帝国皇帝に選ばれました。そしてこのようなことを二度と起こしてはならいと、心に深く刻みつけました。だからこそ、今、みなさんの目の前でこうして彼のことをお話ししているのです。  私は、彼を捉えた討伐部隊員に勲章を授けました。第1級の、最上級のものです。その討伐部隊員は、その後も功績を挙げ続け、どこかの時間で、皇帝になったと聞いています。  そして、彼とヘレナとの間に生まれた子供ですが、その子は孤児として孤児院に引き取られていました。その子は珍しいほどの劣等生で、大人しく、慎ましい子だったといいます。しかし、のちに創出部隊や、討伐部隊に配属されたと聞いています。彼は劣等性ではありませんでした。これは帝国が誇るべき、すばらしい成長です。彼は討伐部隊員として多くの勲章を授かったそうです。そしてどこかの時間で、皇帝にまで上り詰めたと聞いています。  ああ、いずれかの時間の間で、彼を止めることができればよかったのですが。私は今でも後悔の念が尽きないのです。
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