その人がやったんじゃありません

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 急ぎ足の靴音がだんだん速くアスファルトに響く。  子供たち二人だけにはしたくなかったが、残業で遅くなり奥寺さんの帰宅時間までに間に合わなかった。  家へ着いたとき、すでに辺りは真っ暗だった。  扉のノブを回して確認する。――大丈夫、戸締まりはきちんとしてある。  鍵を差し込んでかちゃりと開け、もう一度ノブを回す。  扉を開けた瞬間、焦げ臭い匂いが鼻をついた。 「杏奈? 人士!」  私は靴も脱がずに玄関を上がり、居間へ飛び込んだ。  フローリングの部屋の真ん中で、下の子の杏奈が目を大きく見開いてこちらを見ている。  その手には、先の黒くなった花火の燃えカスらしきものが握られていた。  いそいで走って行って、花火とライターを取り上げる。 「何でこんなことしたんだ!」  思わず大声を出す。 「火事になったらどうする!」  私は、厳しく言って聞かせようとする。だが娘は黙ってきびすを返すと自分の部屋へ走っていった。 「杏奈! 戻って来なさい」  娘は部屋に逃げ込み戻ってこない。私はため息をつく。 「家の中で花火をするなんて……」  私は花火を片付け、焦げたフローリングを雑巾がけしながら、考えた。  もう少し私が帰るのが遅れたら……ぞっとして身震いする。  だめだ。やはり子供たちを二人だけで放っておくわけにはいかない。
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