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朝からあいにくの雨模様で、私の憂鬱な気分も深さを増す。そんな日だった。
新聞を開いて記事を追ってみても、内容はまったく頭に入ってこなかった。
朝食が終わり、私はコーヒーを飲んでいた。
最近、何を食べても味がしない。
「パパ」
息子が言う。
「ごめんなさい、パパ」
私は首を傾げる。
「いったい何のこと?」
私が訊ねると、息子は罰が悪そうに、言った。
「花火のこと」
「何だって?」
「あれ、杏奈じゃない。本当は僕がやったんだ」
向いの椅子に座っている娘に目をやる。杏奈は黙ってじっとこちらを見つめている。
私は椅子から立ち上がる。
「何で今まで……!」
怒鳴りかけて、言葉をのみ込む。
人士はぎゅっと目を瞑り、両手を握りしめて下を向いている。
げんこつが降ってくるのを覚悟しているその息子の頭を、かわりに私はやさしく撫でてやる。
人士はびくっと身体をこわばらせたあと、不思議そうに目を開ける。
その目には涙が溜まっている。
「人士、えらいぞ」
「え……?」
私は自然と微笑みが浮かんでくるのを感じる。
「よく、話してくれたな」
「パパ?」
「自分がした悪いことを告白するのは、勇気が要ることだ」
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